暗闇をランプで照らしながら、階段を少しずつ下りていく。
 歩くたびに床の破片がからからと鳴る。相当に老朽化が進んでいるようだった。
「ロトの勇者がここを訪れてから、一体何年くらい経ってるんだろうなー。」
「もう、何百年だろうねー。」
 階段を下りて、敵と戦って、廊下を歩いて。
「あら、上り階段だわ…?」
「戻ってきたか?」
「ううん、この階段、登ったことないと思うよー。」
「でも、最下層なんですわよね、目的地。道を違えてしまったのかしら…戻ります?」
 三人は頭を抱える。
「いくか。風の塔の時のこともあるしな。」
「駄目だったら引き返せばいいよねー。」
「仕方ないですわね。」
 レオンとルーンは微笑んで、リィンは少しため息混じりにそう言って、階段を登った。

 階段を登ると小さな部屋。その向こうにはまた登り階段。
「…いくか。」
 ため息をつきながら、半分やけになりながら、三人は階段を登り続けた。
 終点はひとつの小さな部屋。そこで出迎えたのは、宝箱だった。この洞窟と比べると、比較的新しい。 それでも100年は経っていそうな代物だった。
「開けるか?」
「気をつけてね、レオンー。」
「宝箱にモンスターが潜んでいることもあると聞いたことがありますから。」
 そろそろと宝箱を開ける。とたん、洞窟の闇にも負けない光があふれた。

 光り輝く名剣。柄にある紋章。三人とも、それが何か一目で分かった。
「「「ロトの、剣…」」」
 勇者ロトがゾーマを倒し、勇者アレフが竜王を打ち倒した剣。ロトの血につながり、真の勇者である 者にしか装備できないとされる伝説中の伝説の代物だった。
 レオンが震える手で、剣を取り上げる。
「ははは、これで俺が装備できなかったら笑えるよな…」
 震えた声のレオン。
「大丈夫だよ、そんなことあるわけないよー。レオンなら、きっと装備できるよ!!」
 そしてレオンは、ゆっくりと装備をした。剣はしっくりとレオンの手になじんだ。まるで 最初からあるべき姿だったかのように。
「すっげー。」
 レオンは剣をぶんぶんと振り回す。剣はその度にきらきらと光った。
「すごいですわ、レオン。まるで肖像画そのままの姿ですわ…アレフ様のよう…」
 うっとりとリィンはレオンを見つめた。本当に、伝説を描かれた肖像画がそのまま抜け出してきたように 思えたのだ。
「うん、レオンかっこいいねー。やっぱりレオンは勇者だよねー、よく似合うよー。」
 にこにことルーンもレオンを褒め称える。
「おう、すっごい使いやすそうだぜ!よし、剣も俺を勇者だって認めてくれたんだ!俺は必ずハーゴンを討つぜ!!」
「うん、きっと大丈夫だよー。」
「ええ、頑張りましょう。」
 レオンは上機嫌で剣を振り、鞘に収めようとして・・・とどまった。
「…ルーン。お前、装備してみるか?」

 ルーンはおろか、リィンもきょとんとした顔をした。
「どうしましたの?レオン、その剣、何か問題でもあったのですか?そんなに喜んでらしたのに。」
「そ、そうだよー。偽物だったのー?」
「別にやるわけじゃねえよ。いっぺん装備してみるかって言ってるんだよ。」
 レオンはあくまでも真顔だった。
「だからどうしてレオン、そんなことおっしゃるの?」
 リィンはさっぱり分からなかった。そして、それ以上に。
「だ、駄目だよ…僕…」
 やたらとうろたえているルーンが不思議だった。
「ルーン、どうしましたの?大丈夫?」
「ねえ、リィン。レオンに似合うものね、あの剣。」
「え、ええ。そう思うますけれど…?」
「いーから装備してみろよ!」
 そう言って、レオンは強引にルーンに剣を持たせた。
「い、いいの?…」
 恐る恐る、柄に手をかけながら、ルーンはレオンを見た。レオンは何も言わず頷いた。
 そっと柄を握り締める。不思議なほど反発はなく、当たり前のようにルーンの手に吸い付いた。
「ああ…。」
 手が振るえる。歓喜の涙。
「僕、大丈夫なんだね…。」
 そういってルーンは剣を持ったまま、座り込んだ。


「ルーン?」
 何が大丈夫なのか、リィンにはさっぱり分からなかった。だが、レオンはルーンの肩をたたいた。
「お前は心配性すぎるんだよ。誰がお前は駄目だなんていったんだよ、馬鹿だな。お前も ロトの末裔なんだから、立派な勇者だろ。」
 ため息交じりのレオンの言葉。
「うん…ごめんね…」
 頬には、さっき流した一粒の涙が光っていた。それがあんまりに綺麗で、リィンは見とれた。
 そしてようやく、リィンは気がつくことが出来た。…悩んでいたのは、自分一人じゃなかったのだと。
「ごめんねー。ありがとうー。」
 ルーンはいつもの笑顔で、レオンに剣を返す。さっきのことなど、なかったかのように。
「ったく、世話かけさせんなよな。じゃあとっとといくぜ!!」
「うん!」
 そういうと、ルーンは珍しく一番前を歩き出した。暗闇でよく見えないが、耳が少し赤いような 気がした。

「レオン。」
 その後ろで、こっそりリィンはレオンに話しかける。
「…ルーン、ずっと悩んでましたの?」
「みたいだな。」
「…みたいって…どうしてレオン、ロトの剣を持たせようなんて…?」
「あいつ、なんか気にしてたみたいだからなぁ。なんとなくだ。」
「気にしてたって…どうして…?」
 レオン自身にもはっきりとした理由はつかめてないようだった。頭をガシガシかきながらしばし考える。
「いや、なんとなく、あいついっつも『レオンなら出来る』とか俺のこと褒めるだろ。のわりに『僕は違うから』とか 言ってるような気がしたんだよな、結構。」
 困ったように言うレオンに、リィンはため息をついた。
「わたくし、ちっとも気がつかなかった。」
(ルーンはいつだって、悩みもなく笑っているものだと信じていましたのに…)
「…そうだな。俺、馬鹿だな。」
「え?」
 レオンは乱暴に自分の頭を掻いた。
「二人ともー、こっちに階段があるよー。」
 遠くで呼びかけるルーン。
「おう、すぐ行く!!」
 そう呼びかけて、レオンがルーンの元に走る。横を通るとき、リィンには確かに聞こえた。
「あいつ…知られたく、なかったんだろうな、ほんとは。」
 小さくぼやく、レオンの声が。


 ロトの剣イベント?終了です。ちなみにこれは、SFC版に則ってます。FC版では、サマルトリアの王子は ロトの剣装備できないんですよね。(私のプレイだとたいてい船を手に入れたとたんに、光の剣を買いに行くので たいてい装備しないのですが…実は。)
 個人的には燃えに燃えてるレオンを書いているのがとても楽しかったです。
 そしてなにより!男同士の友情フェチ本領発揮です。好きなんです、こういうの。女にはわからない何かを共有している男同士、 なーんてなんかいいなぁ、とか。リィンは置いてけぼりです。すみません、男同士の友情ってそんなもんなんです、 きっと。
 次回は竜王編です。これも以前書いたエピソードにつながるお話になりますね。どうぞお楽しみに。


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