「歓迎?」
「そうじゃ。もしおぬしたちがハーゴンを倒してくれるというのなら、いいものをやろう。」
「どうして?」
 ルーンが首をかしげると、竜王は笑う。人ならぬ顔、本来ならば恐ろしいと思うだろうが、 どこかすがすがしい顔だった。
「…人と言うのもそう悪くはないものじゃ。わしらに比べてもろく儚い者だが、力をあわせて 何かをしている姿は…どこかほほえましいと思うのじゃ。それに協力しようとしてはまずいか?」
「まずいかって…いや、まずくはないが…」
 すでに呆然としながら、レオンがつぶやく。
「…それに、な。わしは人間を好いておってな…今のままじゃと…その、話すこともできぬじゃろうてな… 人間に恩を売っておきたいというかのう…」
 どこか照れたように、竜王が言う。レオンとリィンは、もはや何も言えず呆然としていた。
「えへへー。嬉しいなー。うん、僕たちハーゴンを倒しに行くんだよー。」
 ルーンが変わらず竜王に声をかけた。
「ほほう、やってくれるか!!ではまず、これを授けよう。」
 そう言って、竜王は一枚の紙切れを取り出した。
「なぁに?」
 ルーンが受け取って、三人がのぞく。それは。
「世界、地図…?」
 それはとても貴重なものだった。モンスターのいるこの世界で、世界中を調べ、正確な地図を書き記すことは実質 不可能だったからだ。せいぜいあるのは、簡単な地域の地図や海図があるくらいだった。
「ここにコンパスがついてるよー。すごいねー。便利だねー。」
「すばらしいですわ、世界ってこんな風になっていますのね。」
「はー、ローレシアって狭いんだなー。」
 はじめてみる世界の姿に、三人はすっかり浮かれていた。
「それといいことを教えてやろう。この世界に精霊が作り出した5つの紋章があると言う。それを集めよ。 さすれば精霊の守りが得られると言う。かつてメルキドと呼ばれた町の南の海に、小さな島があるはず。 まずそこへ行け!紋章を集め、精霊の力を借りなければハーゴンは倒せまいぞ。」
「紋章…それが、ロンダルキアに行く道なのかしら…?」
「いや、それはわからぬ。わしの魔力をもってしても、ハーゴンを、そしてロンダルキアを見通すことは できぬ。」
「そっか、…ありがとうな。」
 少し複雑そうな顔で、レオンが言った。
「うむ、礼には及ばぬ、我は王の中の王の竜王の孫なのだからな。無事ハーゴンを打ち倒してくるがいい。」
「…やっぱりちょっと攻撃してーけどな…」
 えらそうな態度にむかつきながら、レオンは小声でつぶやいた。


 傾いた日に照らされて。ゆらゆらと、船が揺れていた。
「…レオン。」
 甲板で座り込んで、きつい目をレオンに向けるリィン。
「わるかったよ!」
 ふてぶてしく言うレオンだったが、リィンは攻撃の手を休めるつもりはなかった。
「…どうして世界地図があるのに真反対に船を進めるんですの?」
「だから悪かったって言ってるだろうが!反対に見てたんだよ!!」
「コンパスがありますのに?」
 竜王の城から出て、三人はメルキドに向かった。そしてそこから南へ行く算段だったのだが… 何をどう間違えたのか、気がつくとアレフガルド大陸の北まで、船を進めていた。
「あんなでかい地図見んの初めてだったんだよ!!」
「あははー。落ち着いてよ、二人ともー。それよりとりあえずラダトームに戻ろうよー。王弟陛下もきっと心配してると 思うからー。」
 レオンに代わってルーンが地図を見ながらそう言った。
「ああ、そうだな。」
「…まぁ、こうなった以上はしかたありませんわね…」
 二人がそう納得したときだった。
「うわ!」
 レオンが、悲鳴をあげた。
「どうしましたの?」
「どうしたのー、レオン。モンスター?」
「ちょっと船止めてくれ!!」
 船の動きが止まる。レオンが船から海上を見下ろしている。
「どうしましたの?」
「なぁ、あそこ、なんかやたら光ってないか?さっきなんかが反射してめちゃくちゃまぶしかったんだ。」
 指を指す方向を見ると、そこは何の変哲もない海。
「何もありませんわよ?」
「さっき一瞬光ったんだ…」
 夕日に照らされて、海面はきらきらと光っていた。三人はじっと海面を見つめた。
「…ん―――――…あ!」
 一瞬、ほんの一瞬、海の底の一点がきらりと光ったのを、ルーンは見逃さなかった。
「何かあるよ!」
「な!あるだろう?」
 リィンにはそれが見えなかったが、心当たりがあった。
「…もしかして、ルプガナの商人の、積荷かしら…?」
 握られた手の感触を思い出し、リィンはなんともいえない苦い表情になった。
「あ、そうかもしれないねー。」
「しかたねーか。頼まれたし、引き上げるか?」
「そうだねー。日が暮れるまで頑張ってみようよー。命綱つけるから、リィンは見張っててね。」
「ええ、分かったわ。気をつけてね。」
 二人は上着を脱ぎ、腰に綱をくくりつけ、一気に海へと飛び込んだ。


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