二人は、ひたすら潜り、海面にあがり、休憩に船に戻ってくる、を繰り返していた。
「多分、ここいらだと思うんだけどな…」
「もうちょっと右の当たりも探してみるねー。」
「おう、頼むわ。」
 そう言って、また二人で潜っていくその様子を、リィンはぼんやりと見ていた。
 いや、正確には、ずっとルーンを見ていた。
『僕、大丈夫なんだね…。』
 そう泣いていたルーン。
(レオンは、ずっと気にしていた…そうおっしゃっていたけれど…ちっとも気がつかなかった…)
 いつも笑っていた。のんきそうに幸せそうに。いいや、もし幸せかと聞けば、ルーンは『 うん、僕幸せだよ』と答えるだろう。
 …悩んでいるのはずっと自分だけだと思っていた。
 ざば、と音がして、ルーンが船上に上がってきた。
「えへへー。ちょっと疲れたから休憩ー。僕体力ないねー。」
 タオルを体にまとい、床に腰を下ろす。いつものように、にこにこと笑っている。
「…ルーン。」
「どうしたの?リィン?」
「いいえ、なんでもありませんわ。」
 そう首を振った。
「そうなの?でも、なんだか悩んでるのかなーって。僕、心配だよー?」
「それは、ルーンなのではなくて?」
 リィンはまっすぐにルーンを見た。
「…ずっと、悩んでいらしたの?わたくし、ずっと気がつかなくて。ずっと、何か、気にしてらしたの?」
 ルーンが、微笑んだ。それはいつもの天真爛漫な笑顔ではなく・・・深い、深い笑顔だった。

 その笑顔は、一瞬にして消え、いつもの天真爛漫な笑顔になった。
「ありがとう、リィン。僕、泣いちゃったから心配してくれたんだねー。とっても嬉しいよ。」
「ルーン…。」
「でもね、大丈夫だよ、僕。」
 にっこりとそう言って、話を切り上げようとする手に、リィンはとっさにつかまった。
 そのとたん、ルーンの体温が伝わってくる。レオンに比べると細い腕だが、十分にたくましいのだと、 リィンは初めて気がついた。
「…どうしたの?」
 気がつくと、真っ赤になって硬直していたリィンを、ルーンは下から覗き込んだ。
「ずっと、ルーンのことが、気になっておりますのよ?わたくしでは、教えていただけません?」
 ぼそぼそと、リィンはそうつぶやいた。
 ルーンはひとつため息をついて、座りなおした。そうして、空を見上げてつぶやいた。独り言のように。
「僕…魔法もリィンみたいに強くないし、レオンみたいな力もないよ。…本当に、普通で平凡な力しかなくって。 リィンが『姿』で自分の血筋を疑っていたように、僕も、『素質』に自信がなかったんだよ。」
 リィンは、ルーンを見つめた。…そこにいるのは、リィンの知らない『男の子』だった。
「僕みたいな普通の人間が、二人と一緒に旅していいのか、ずっと不安だったんだ。それは 今だって不安だよ。もっと力が欲しいって、僕ずっと思ってる。…けど、 僕には僕のできることが、僕の役割があったらいいなって思うよ。僕は二人と一緒にいられて嬉しいから。 頑張るよー。」
 最後ににっこり笑ったときには、ルーンはいつものルーンだった。
「あ、あの、わたくし…」
 それでも、頭が空回りしていた。はじめてみる、ルーンの表情。ルーンの気持ち。そんなものが 頭でぐるぐる回って、何も言えなくなっていた。
「おめーら、なにサボってんだよ。」
 そこに救いの神が来た。


「気がついたら俺一人で潜ってるしよ…」
 髪から海水をぽたぽた落としながら、レオンはぐちった。
「ごめんねー、レオン。ちょっと休む?」
 そう言ってルーンはレオンにタオルを投げる。レオンはそれを受け取って、三人の位置が円陣のように なるように座る。
「なーんで俺だけ、なんだろうな…今までロト王家で魔力が一切ない奴なんて、いなかったのにな…」
 独り言のようなつぶやき。
 あまりにもさりげない言葉に、リィンの表情は変わる。
「レオンも、ずっと気にしてらしたの??」
 リィンの問いかけに、首を振るレオン。
「いや、俺には剣があるしな。本当ならもっと気になるんだろうけど…俺は不思議なほど気になんねえ。 別にそんなもんなくったって戦えるしな。」
「精霊が決めた、宿命かもしれないねー。レオンが魔法が使えないのはー。」
 ルーンの言葉に、レオンは真顔で頷く。
「ああ、そうだったらいいって、俺は思ってる。」
 そして、少し自嘲するように言った。
「だからさ、俺がアレフ様の生まれ変わりだって言うのは…多分俺の願望だったんだ。もし俺が アレフ様そっくりじゃなかったら、一番血筋や素質を疑ってたのは、間違いなく俺だったから。…でもさ、 俺、別に生まれ変わりじゃなくてもいいよ。俺、ルーンにアレフ様の話を聞いて、 ロトの剣を持てて、初めてそう思った。」
 その言葉を聞いて、リィンの胸にずしんと来るものがあった。何かはわからない。 だが、その言葉が無性に胸に詰まる。何かその言葉に抵抗を感じた。
「レオン…レオンは、自分が生まれ変わりだと、嫌なのかしら?」
「わかんね。ただ、そうだったら嬉しいと思うぜ。この頭の中の記憶も…気になるしな。」
「…きっと、何か意味のあることだよ、レオン。」
 ルーンは笑った。レオンのことなら何もかも、無条件で受け入れる、そんな心をリィンは感じた。… それは、自分にはない心だと思った。
 …だが、リィンは自分の中にある、汚い気持ちにふたをした。気がつきたくない気持ちだったから、忘れてしまう ことにした。

「じゃあ、僕、潜ってくるねー。さぼっちゃったし、レオンしばらく休んでいていいよー。」
 そう立ち上がった瞬間だった。
「あ…、ねえ、あれ!!」
 海から、光が立ち上がった。まるで光が湧き出ているかのように光っている。
「な、なんだぁ、いきなり!」
「太陽の角度が変わったせいで、光が積荷の何かに反射しているのかもしれませんわ。」
「じゃあ、今がチャンスだな!」
 そういうや否や、レオンは海へと飛び込んだ。
 ルーンも続いて海に飛び込もうとし…リィンを振り返った。
「心配してくれて、ありがとう。…リィンの心はきっと、リィンが思うほど汚くないし、 リィンはリィンが思うほど無力じゃないと、僕思うよ。」
 それだけ言って、ルーンは返事も待たずに海へと飛び込んだ。



 竜王イベント、終了です。本当は竜王が世界地図をくれるわけではないのですが、いいものって言うわりに 情報だけかい!とつっこんだ自分がおりましたので、そうしてみました。
 しかし竜王、ドラクエ2最大の謎の人(?)物です。一体お母さんはなんだったのか。さすがに盛り込めませんでしたが、 なかなか奥深いキャラだと思います。

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