「あのねー。ロンダルキアに行く方法は、とりあえず分からなかったんだけど、面白いことが分かったんだよー。 この魔法陣、見てー。」
 ルーンが広げた本の中には、五芒星と蛇をかたどった文様と文字が複雑に絡み合った見たこともない魔法陣があった。
「…初めて見るわ…これは、なんだか…」
 口を濁すリィンに、ルーンは変わらぬ笑顔で言う。
「うん、邪法って呼ばれてる類の魔法陣だよ。こうやって文献に出てくる事だって珍しい、封印された魔法陣。 ここに使っちゃいけないって書いてあるからね。でも、これは本当に強力な 増幅の魔法陣なんだ。これと古の開錠の呪文と合わせたらなんとかロンダルキアの扉が開かないかなって思ったんだけどねー。」
「でも、これが邪法と呼ばれるからには、それ相応の理由があるのでしょう?それを考慮しなければ ならないわ。」
「んーとね。この魔法陣はね、大体普通に床に大きく書かれるか、小さな筒に掘り込んで、それを持つことで 魔力をその筒に反響させるって形で使われてたんだけどねー。そしたらね、たとえば攻撃呪文でも、小さな火が大きな炎に なってモンスターに放たれるって感じだったんだって。」
「すげえじゃねえか、なんだって使われなくなったんだ?」
 上の空で聞いていたレオンでもわかりやすかったか、身を乗り出して聞いていた。
「うん、あのね。意味がないからなんだー。」

「「意味がない?」」
 二人のハーモニーをにっこり笑って聞くルーン。リィンは読んでいた本から身を起こす。
「それはどういうことですの?」
「だってね、その分だけ…ううん、それ以上の代償を払わなきゃいけないんだよ。」
「代償…つーと…MPか?」
「うん、正確には魔法に使う材料すべてだけどねー。その魔法陣使ってギラを唱えてベギラマが出ても、ベギラマより MP使うんじゃ、意味がないでしょう?」
「そのほかにも、特別な薬草がいる魔法などでは、決められた用量以上に必要になるということですわね?」
 補足したリィンの言葉に、ルーンが頷いた。
「うん、大きな呪文に挑戦したくてもね、人の魔力じゃ足りないくらいで、死んじゃう人までいたんだって。」
「じゃあ、なんの意味もねえんじゃないのか?」
 レオンが当然の疑問を放つ。
「昔はね、何人かの魔法使いが集まって、人を呪い殺したりするのに使われたみたいだよ。だから邪法なんだー。」
「つまり何人か合わされば、大きな魔法も使えるのね?」
 念を押すリィンの言葉に、ルーンはうつむいた。
「そう思ったんだけど…開錠の呪文が見つからなかったんだー。」
「開錠の呪文というと、ロトの仲間が使っていたという、あの伝説の呪文ですわね…わたくしも存在は知っていますけれど 詳しくは…」
「そうだよねー。せっかく調べさせてくれたのに、力になれなくてごめんね?」
 まるで捨て犬のようなルーンの表情にくすりと笑うリィン。
「いいえ、努力の結果成果が出なかったことは、恥ずべきことではないもの。それにそれを言うなら わたくしたちも一緒よ。結局ラダトーム国王は見つけることが出来なかったのですもの。」
 その言葉に、パッと顔を輝かせるルーン。
「そうだ!金の鍵の場所なら分かると思うよ!えっと…」
 ごそごそと本の柱を探り、一冊の本を取り出す。どこかの貴族が書き記した冒険記だった。第18章、 船出した貴族が嵐に巻き込まれ、難破したところを通りかかった漁師に助け上げられたところを開く。
「これこれ。『僕は、助けられた礼にとザハンの漁師に金色に光る鍵を渡した。』…これって 金の鍵のことじゃないかなぁ?」
「その可能性はあるわね。では、次の目的はザハンかしら?」
 リィンがそう言って振り返ると、すでに夢の中に入り込んだレオンが、静かに寝息を立てていた。


「手伝いましょうか?」
「ううん、僕が散らかしたから、僕がやるよー。」
 そう言ってルーンは手近にある本の柱の上部を抱える。
「けれどここにいても暇だわ。これはどこへ持っていけばいいの?」
 強引に別の本の柱を抱え込むリィン。
「ありがとうー。それは魔法の歴史だから、奥から三列目の5つ目の本箱だよー。」
「分かったわ。」
 寝ているレオンを置いて、パタパタと二人は本の片付けに入る。少しずつ本の柱が減っていき、そして ほとんどの本が机の上から消えたときだった。
「うわぁぁぁぁぁーーーーーー」
「うわ、なんだぁ!!!」
 寝ていたレオンが飛び起きるほどの轟音と、ルーンの悲鳴が聞こえた。


 パタパタと本を戸棚にしまいこんでいく。片手に抱えた本が重いが、ルーンはそれを意に介さない。どこか 嬉しそうに本を片付けていく。
 が、本を持ちすぎたのだろう。一冊の本が、ルーンの手から零れ落ちた。苦笑しながら、ルーンはその本を 拾うために、しゃがみこむ。
「…あれ?」
 ちょうど本が落ちた真横の本棚。その最下段の一番端。一番見難いところに、不思議な本があった。あせた青い丈夫な装丁の 立派な本だが、タイトルが書かれていない。そしてその代わりにあるのは。
(ロトの…紋章だよね…これ…?)
 ラーミアを象ったとされる、ロトの紋章が背表紙に植わっていた。
 書物に関して、人一倍好奇心が高いルーンが、これを見て放置できるわけがなかった。すべての本を横に置き、 その本の真正面に座って、その本を引き抜こうと本に手を添える。
(…あれ?)
 なにやら嫌な予感がした。この本を持てば、嫌なことが起こる…そんな感じがするのだ。何の根拠もない、 だが、確かにある嫌な予感。
 だが、それを気のせいとなだめ、ルーンは本を本棚から引き抜いた。
「うわぁぁぁぁぁーーーーーー」
 とたんにルーンの足元の床が消滅し、ルーンは奈落の底へと一気に落ちた。


 悲鳴を聞いたとたん、リィンはその時持っていた本をすべて放り出し、レオンがいた机に駆け戻った。
「どうしたの?」
「わからねぇ!あっちから聞こえた!」
 レオンが指差す方向へ、リィンはいち早く走る。その後ろから、レオンも付いてくる。
 ラダトームの書庫はとにかく広い。レオンが指差した方向の本棚を一つ一つルーンの名を呼びながら見ていく。
「こっちには何もないわ」
「こっちもだ。あっち方行くぜ。ルーン!!居たら返事しろコラァ!!」
 ばたばたとあわただしく走る。そして、一番隅の本棚に来たときだった。
「…なんだぁ?」
 床に、ぽっかりと階段があった。地下へと続く階段は、レオンたちを闇へと誘っていた。
「…こちらに置いてある本はおそらくルーンが持っていた本ではなくて?では、やはりルーンはこの中…?」
「ルーン!!いるかーーー!!」
 地下に向かい叫ぶも、その声は反響するばかりだった。
「…ここでこうしていても仕方ありませんわね。参りましょう。」
「ああ。」
 近くになった灯りをひとつ毟り取ると、レオンは階段へと足を踏み入れた。


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