「いたたたたた…」
 背中をしこたま階段にぶつけ、床に頭をぶつけたところでルーンの記憶はとまっていたが、どうやら 無事なようだった。
「ルーン!!」
 直後にリィンの呼び声が聞こえる。
「リィン!僕、ここに居るよー。」
 その声に足音が高く響いた。すぐに灯りが見え始め、そして二人が降りてきた。
「何やってんだよ!」
「あははー。ごめんねー。なんかこれを引き抜いたら、いきなり床が開いちゃって… 気絶してたみたいだー。」
 その本をリィンが手にとる。
「…これ…中は白紙よ?何も書かれていないわ。」
「そうみたいだな。なんだ、こりゃ?」
 横から覗き込んだレオンも、不思議そうにしている。
「じゃあ、単にこの階段を開けるスイッチなのかな?…でも、わざわざロトの紋章が使われているってことは、 きっとこの奥に、何かあるんだよ。」
「おう…きっと、ロトの勇者にまつわる何かがあったりするのか?」
 レオンが目をらんらんと輝かせている。
「ともかく隠し階段ですもの。何かあるはずですわ。」
「行こうぜ!」
 言うが早いか、レオンは奥へと足を進める。ルーンとリィンは顔を見合わせ微笑みあうと、レオンの後を追った。


 地下室は長い廊下のようになっていた。音が反響し、異様な空間を作り上げている。
「…これ、もしかして脱出路とかじゃねえのか?」
「その可能性も高いですわね。そして、もしこの脱出路が外につながっていたなら、国王がこの脱出路を利用した 可能性も出てきますわ。」
「うわ…そうなったらお手上げだな、おい。」
「…違うよ。」
 ルーンが静かな声で、その可能性を否定した。
「…違う、ここは、脱出路なんかじゃ、ないと思う…」
 そういうと、ルーンはレオンを追い越し、急ぎ足で歩く。
「どうしたんだ?ルーン?お前なんか知ってるのか?」
 レオンの言葉に、ルーンは首を振る。
「分からないんだけど。きっとこの向こうに、人が待ってる。そんな気がするんだ。」
「人ということは…やはり脱出路なの?」
 リィンの言葉に、ルーンはもはや答えなかった。ただひたすら歩き…そして、扉の前に着いた。
「立派な扉ね…」
 鉄で出来た、重そうな扉だった。ルーンはためらいもせずに扉を押す。
「鍵かかってるんじゃないのか?」
「かかってないよ、きっと。」
 その言葉のとおり、重苦しい音を立てて扉が開いていく。
「…ルーン。ちょっと待って。」
 入ろうとしたルーンを、リィンが引き止める。
「ルーン、何か変ですわよ。どうして知っていらっしゃるの?」
 横でレオンが頷いている。ルーンはしばらく考え込み、恐る恐る言った。
「…僕にも分からないんだ…でも、多分来たことがあるんじゃないかなぁ?はっきり覚えている わけじゃないんだけど…見たら思い出すんだ。この扉を、昔開けたことがあるって。…ああ、そういえば 本を手に取ろうとしたときも、僕とっても嫌な予感がして…きっとこのことだったんだね…」
 一人で納得をしている。レオンは思いっきりルーンの頭を殴る。
「痛いよー。僕さっきぶつけたのにー。」
「つまり、前に来たことがあるんだな?」
 少し考えたあと、頷いた。
「うん、小さいころだと思うけど…ごめん、よく分からないや…」
「小さいころだというのなら、ラダトーム王在位20周年記念の時ではなくて?確か10年前でしたわよね?」
 リィンの言うことはもっともだった。その時は三人ともラダトームを訪れていたからだ。
「かなぁ?うん、そうだと思うけど…」
「とりあえず先に行こうぜ。この先に危険とか罠とかはねえんだろ?」
 レオンの言葉に頷く。
「多分…小さな僕が帰ってきてるんだから、大丈夫だと思うよ。」
「だな、じゃあ進もうぜ。」
 ルーンが開けた扉をさらに大きく開いて、レオンは扉の奥へと向かった。

「これは…肖像画か?」
「そうみたいですわね…」
 三人を出迎えたのは、膨大な数の肖像画だった。個人のものもあり、複数のものもあった。 長い廊下の両端の壁を埋め尽くしていた。
「でもなんだって隠してあるんだ?」
「どうしてだろうねー。」
 三人はひたすら肖像画を眺めながら歩く。
「おそらく…なにか問題があった人物の肖像画なのではありません?この人物は5代前のラダトーム王の妹で、 国庫から盗みを働いて追放した姫ですし、さきほど見かけた肖像画は8代前の王の母親で、気に入らない召使を 次々に殺し、反乱を起こさせた人物でしたわ。」
「表に飾るわけにはいかない肖像画を保存してるんだねー。」
 リィンの意見に同意しながら、ルーンはにこやかに笑う。
「っち、つまんねーな。捨てちまえばいいじゃねえか。」
「歴史を大切にしている国ですから。後世のことを考えれば捨てるわけにもいかないのではありません?」
「そうかー。僕が見たのは、これだったんだー。」
 ルーンのつぶやきを聞き、レオンはルーンの頭をぐしゃぐしゃとかきむしる。
「そういやお前、『人が出迎えてくれる』って言ってたもんな。でも、つまんねーの。」
 レオンがそう言ったときだった。
「…あら?」
 少し間の抜けたリィンの声。振り向くと、その理由はすぐ分かった。肖像画がかかってない、妙な空間があるのだ。
「なんだろうねー、ここ。」
「絵をはずしたんじゃねえの?」
「補修のためかもしれませんわね。」
 そういいながら通り過ぎていくと、すぐ壁にあたる。行き止まりだった。

「これで終わりか。なんだかしょうもねーな。」
「拍子抜けですけれど、どこか外に通じてなくてよかったですわ。ラダトーム王の逃亡を考えると。ねぇ、ルーン?」
 リィンがルーンを見る。ルーンはじっとその行き止まりの壁を見ていた。
「なんだ?…隠し扉があるとかじゃねえよな?」
 レオンもその壁を見てみるが、継ぎ目のようなものは見つからなかった。
「ええ、ないと思いますわ。ルーン、どうしたの?」
「そうか、ここじゃないんだ!」
 ルーンはそういうと、くるりと身を翻した。走り出して着いた先は、先ほどのぽっかりあいた空間だった。二人の いぶかしげな視線を介さず、ルーンはなにやら探り始めた。
 そして、わずかな壁の部分がくるりと反転し、そこからロトの紋章の形をした取っ手が顔を出した。
「ここが隠し扉だったの…?」
「でもなんだってこんなところに?」
「それは分からないんだけど…なんとなく、あれだけじゃなかったなって僕、思って。」
 ルーンの言葉にレオンは真剣な顔をした。
「なんか思い出したのか?」
 ルーンは首をかしげる。
「のど元まで出てる…って感じなんだー。この奥に何があるのか、僕、思い出せないし…」
 頭をこんこんと叩くが、もちろんそんなことでは思い出せない。
「でも、開けてみたら分かる話ですわ。ルーン。開けてみてくださる?」
「うん、行くよー。」
 そういうと、ルーンは取っ手に手を添える。
 扉を引くと、その扉は重々しい音を立てながらゆっくりと開いていった。


 いつもは曲がりなりにも一話ごとに話を終わらせていたのですが、たまには引いてみようかと、こういう構成になりました。 いかがでしょうか?蒼夢自身は書いていてちょっと気持ち悪いです。「終わってない!」って感じが なんとも言えず…慣れないからでしょうか?
 かなり話がオリジナルめいてきて、申し訳なさいっぱいです、ごめんなさい。頑張って早く冒険に戻します。

 さて、次回、扉の奥にあるものが、三人を迎え入れる…その正体は?どうぞ予想ください。

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