リィンは、口に手を添える。感情があふれ出しそうだった。
「…そうだとすれば、わたくし、は…」
 忌まわしかったこの顔が目の前にあって。そして、それは勇者の恋人だとするなら。ずっと疑っていた 何かが、解かれるのだろうか。
「…わたくしは、本当に、ロトの血筋をひくものなのでしょう…か…」
「そうじゃねえの?たまたまロトの末裔に同じ顔が生まれるなんざ偶然にしちゃ、出来すぎだろ。」
「僕もそう思うよ。それに…もし、この人が勇者の恋人じゃなかったとしても、きっとリィンはこの人の末裔だよね。 だったら、関係ないよ。この人も魔王と戦った勇者なんだもの。たとえ、ロトの末裔じゃなくても。」
 リィンは勇者の末裔だよ、とルーンは笑う。そして、二人も笑う。もう一度、三人で笑いあう。
「ルーンも、ですわね。間違いなくロトの末裔ですわ。」
「でも、ロトの勇者がそんな間の抜けるような顔だったなんてなぁ…」
「ひどいよー、レオンー。」
「あら、レオンが人の顔をいえる立場でして?」
「どういう意味だ、それは?」
「どういう意味か分からないほど頭も筋肉になってしまわれました?顔って性格が出ますものね。」
「ああ、お前もな。」
「二人ともー、笑いながらなに言い合ってるのさー。」

 過去に背を向けて。三人は暗い廊下を戻り始めた。


 本を本棚に戻すと、何事もなかったように階段への入り口が閉まる。
「次来る時は…三枚目の絵になるような偉業をなしとげた時…かな?」
 少し照れながら、レオンがそう言う。
「そうですわね、すべてが終わったら…また、来たいですわね、こっそりと。」
「その時は、落ちないようにしたいなぁ…とっても痛かったんだよー。」
 散らばった本を片付けて、三人は図書館を出た。形に出来ない宝を、胸に秘めて。


 ラダトームから外に出て、レオンは凝り固まった体をほぐす。
「あー、やっぱ疲れるな、図書室って。」
「あははー、ごめんね、レオンー。」
 リィンはあきれた顔をしたが、それでも埃のにおいがする場所より、外の空気がおいしいことは事実だった。
「それで次は…竜王が言っていた南の小さな島でよろしいのかしら?」
「島に…その紋章とやらがあんのかな?」
「かなぁ?きっと、行ってみたらわかるよー。」
 船に乗り込み、帆を揚げる。
 ゆっくりと離れていくラダトームの城。
「行って、良かったねー。」
「…そうね。」
「そうだな。」
 歴史を内包した風が、三人の間をゆっくりと流れていた。


 かつて『守護神の住まう町』と呼ばれたメルキドのあった場所からはるか南。 その小さな島がどれか、三人にはすぐに分かった。
「…つまり、あいつは…」
 巨大な塔がたった一つ、この島には建っていた。
「うん、この塔に入れって事だろうねー。」
「塔ではなく…灯台ではなくて?屋上から灯りが見えますもの。…よく逆方向と間違えられましたものね」
 じろりとリィンがレオンを見る。レオンは舌打ちをひとつして、灯台の入り口に向き直った。
「じゃあ、行くか。」
「うん、紋章ってなんなんだろうねー。とっても楽しみだよー。」
 大きな階段が見える。三人はそちらへ足を運ぶ。
「そなたは何者だ?」
 階段の脇に、一人の兵士が居た。おそらくラダトームの兵士だろう。
「…俺たちは旅のものだ。」
「このような灯台に、一体何用だ?」
 あくまでまじめに聞く兵士に、レオンはにやりと笑う。
「さて、な。何だと思う?」
 その言葉で表情が変わったのを見て、リィンが急いで口を挟む。
「ごめんなさい!わたくしたちはここに、ある物を取りに来ましたの。…ご存知ない?」
 リィンの美貌が良かったのか、兵士はとたんに相貌を崩す。
「誰に聞いたかは知らぬが、そなたらは紋章を見つけに来たのか?」
 三人が頷く。
「やっぱりここには、紋章があるんだね!!」
 ルーンの人懐っこい声が、兵士の警戒を解いたのだろう。親切にこう教えてくれた。
「紋章のは、『物ではなく心のしるし。おのれの強さの中にそのしるしが刻まれる』と聞いている。 これが一体何を意味するのかはわからんが、頑張ってくるがいい。」
「強さの中に…?」
 三人は首をかしげる。さっぱり意味が分からない。が、悩んでいても仕方がない。階段を登り、灯台に入った。


「なぁ…」
 階段を登って登って登って、廊下を歩いて歩いて歩いて。部屋をいくつも通って。
「なんだってこんな、複雑な通路なんだよちくしょーーーーーーーーーー!!」
 ぼうぼうと燃え盛る炎の前で、レオンはそう吼える。
「灯台は船の目印ですし、敵やモンスターに支配されては困りますから、そう簡単にたどり着けないようになっているのでは なくて?」
「とっくに支配されてんじゃねえかよ。もうゴーゴンヘッド何匹倒したかわかんねえぞ?」
 三人とも座り込んだ。ルーンが水を入れたコップをリィンに渡す。
「でも疲れたねー。紋章もないし。どこにあるのかなぁ?」
「5つの紋章があると言いますけれど、やはり一つ一つ別々に隠されているのかしら?」
「暇なことすんな、畜生…」
「ばちが当たるよー。」
 そうして少しの間休憩して、体力を回復する。
「まぁ、とりあえず此処までの道にはなかったよな。」
「ええ、他の道があるのでしょうね。階段も多かったですし。」
「うん、楽しいねー。」
 一人浮かれているルーンを尻目に、二人は少しため息を付いて立ち上がる。
 来た道のりを戻る足取りは重く、険しかった。

 レオンはロトの剣を振り下ろし、最後のサーベルタイガーの首を切り取る。血をぬぐい、鞘にしまう。
 周りを見渡すが、周りに二人は居ない。
 モンスターの集団が襲ってきたのは、いくつかの階段を下りたとたんだった。状態を整えるまもなく 戦闘に入ってしまい…はぐれてしまった。
 もう一度周りを見渡すが、姿も魔法の爆音も見えない。
「おーい、ルーン!!リィーン!!」
 声は灯台に響き…消える。返事はなかった。ため息ひとつ。
「ルーン!リィーン!!」
 大声をあげながら、二人を探すために歩くことにした。

戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送