それは村の奥。タシスンの妻が言っていた神殿が建っていた。
「ずいぶんと大きな神殿ですわね。」
「村と同じくれえの大きさがあるんじゃねえか?」
「何を奉っているんだろうねー。」
 三人がそう言いながら足を踏み入れた時だった。
「…よそ者が、このようなところに何用ですの?」
 小さく、そして鋭い声がした。
 姿を現したのは、この神殿の若い巫女のようだった。そしてすぐさま、近くにいた年老いた巫女が、 若い巫女をとがめる。
「これ!なんて言い方ですか!!」
「いいえ、静かなこの地を騒がしたこと、お詫び申し上げます。この先の航海と…世界の平和を祈りに 来たんです。」
 にこりと、ルーンが笑う。
「まぁ、それは感心なことですわね。…ところで…失礼ですけれど…」
 年老いた巫女の視線の先には、若い女の登場でルーンの陰に引っ込んでいたレオンが居た。
「まるで…アレフ様の映し身。…貴方はもしや…」
 その言葉に、リィンが反応する。
「…巫女様は、竜の勇者アレフの肖像画をお持ちなのですか?」
 竜の勇者の肖像画は、ロト三国とラダトームには広く飾られているが、ロト信仰の場所から一歩外に出ると、 ただの御伽噺と受け取られている場所も少なくない。多くの人間が来るルプガナならばともかく、このような田舎に アレフの姿を知っているほうが珍しいのだ。
「ここからすぐ東に、ローレシアへの旅の扉がございます。この神殿は、アレフ様がお持ちになった物を 守るために作られたものなのです。」
「巫女頭様!!そのような!!」
 若い巫女が講義するが、巫女頭はそれを目線で諫める。
 レオンは一呼吸付いて、一歩前に出る。
「俺は、レオンクルス・アレフ・ロト・ローレシア。ロトとアレフの末裔。ローレシアの 第一王子だ。」
「僕はルーンバルト・サルン・ロト・サマルトリアだよ。」
「…わたくしは…リィンディア。ムーンブルクの王女ですわ。」
 ルーンは笑顔で、リィンは少し苦い表情で名を口にした。


「まぁ…尊い方々がこの地にいらっしゃるなんて…何の御用ですの?」
 三人の名を聞き、若い巫女はすっかり萎縮したようだったが、巫女頭は敬意こそ 見せたが萎縮した様子はなかった。
「用はもう済んだ。ああ、ひとつあったか。紋章のことを知らないか?」
「紋章…ですか?」
「これですわ。」
 リィンが渡した星の紋章を、巫女頭はしげしげと眺める。
「あと、太陽と月と水と命があるんだよー。」
 ルーンがにこにこと笑っていったこと。その種類の情報は、星の紋章自身が教えてくれたことだった。
「…紋章のことは存じませんが…ここから北西の小さな島に『太陽のほこら』と呼ばれる場所がございます。 それからロンダルキアの北西、ムーンブルクの南西にテパと言われる小さな 村の近くにある満月の塔と呼ばれる場所があるそうです。何か関係があるやもしれません。」
「そうか。」


「ところで巫女頭さま、ここには何が奉られているのです?アレフ曰くのものなのですか?」
 ここを去ろうと立ち上がろうとしたレオンが、その言葉で再び椅子に腰を下ろす。
「アレフ様ゆかりのものっつーことは…もしかして、ロトの…?」
 レオンの言葉に、首を振る。
「いいえ。アレフ様がローレシアをお治めになった後、一人の地方の商人が献上したものです。… その名を聖なる織り機と申します。」
「聖なる…と付いているということはなにか特殊な織り機ですの?」
 リィンの言葉に頷いた。
「これを用いれば、たとえ天の恵みですら織り込むことが出来、人間に神の世界の防具が織れると言われております。」
「つまりー、とっても不思議な魔力をもった防具が作れると言うことー?」
「なぁ、それくれよ!!」
 レオンの言葉に、巫女頭はもちろん首を横に振る。
「この神殿は聖なる織り機を守り、やがて神へと返すために作られたもの。どなたにも渡すこと はできません。それに、真に織物の神に認められたような一流の職人にのみ、使いこなせると言われております。恐れながら 王子たちは王族であり、戦士ではあられるでしょうが、織物の職人とは思えません。」
「けど、それで織り上げた防具があれば、この先の旅も安全に進めるぜ!俺たちは、今世界を滅ぼそうとしてる ハーゴンと戦ってるんだ!」
 レオンの言葉に、巫女頭は頑として応じない。
「なんと言われようと、お渡しするわけには参りません。それにレオンクルス王子。この先、織り機を持って旅を されるおつもりなのですか?」
 その言葉に、ぐっと言葉を詰まらせる。
「どうしても、駄目です?わたくし達は皆様からそれを取り上げようとは思いません。ほんのひと時、お借りすることが できればと…」
 リィンの言葉にも首を振らない。
「いいえ、お貸しすることもできません。織り機が納めてある場所は、厳重に鍵がかかっております。…なにより 心正しくないものは、神からの罰を受けるとさえ言われております。 私たち巫女ですら、あまり織り機の場所には近づきません。」
「…だめか。」
 レオンがそう、ため息をついたときだった。心なしか、巫女頭がいたずらっぽく笑い、そして神妙に言った。

「ですから心正しき目的を持った泥棒が、 しかるべき職人に依頼され、こっそり鍵を開けて織り機を持ち出しても、こっそり返されても 私たちは気が付かないでしょうね。そうそう、 ぶっそうなことにその鍵は、裏世界で取引されている『ろうやの鍵』で開いてしまうそうなのです。」
 その言葉を聴き、三人が笑う。
「まぁ、それは物騒なことですわね。十分お気をつけ下さいませね。」
「ええ、リィンディア王女、ありがとうございます。」
「ありがとうございます、巫女頭様。今度来る時は、泥棒さんかもしれないけどー、みのがしてねー?」
「…ルーンバルト王子、十分お気をつけ下さいね。」
 二人と共にレオンは立ち上がり、短くこう言った。微笑みながら。
「感謝する。」
「…ええ。レオンクルス王子。…月のかけらが星空を照らす時、海の水がみちる。この村に古くから伝わる伝説です。 太陽が昇っていないことも、何か意味があるのだと信じていてくださいませ。決して希望はお捨てにならないで下さいませ。」
「ああ、…やりとげて帰ってくる。」
 そうして、巫女頭は三人を見送った。そのとたん、ぼろぼろと泣き始めた。
「巫女頭様?どうなさったんですか?」
「いいえ…なんでもありません…すこし…すこしだけ一人に…」
 年老いた巫女頭は、そのまま泣き続ける。
(ルビス様…この年老いた女に与えてくださった幸運…感謝しております…。…よもや…生きてアレフ様に 会えるなど……もったいないほどの幸運です…たとえ…本人ではないと分かっていても…)


 村を出て北西。その祠は本当に小さな塔にあった。
「…ここか?太陽のってのは?」
「あんまり太陽という感じはしませんわね?」
「けど、あそこにたいまつが燃えてるよ?太陽の象徴かなぁ?とりあえずレオン、山彦の笛を吹いてみたら?」
 ルーンにそう言われ、レオンが笛を取り出す。
 ぱぷぺぽー、ぱぷぺぽー…ぱーぷーぺーぽーーー
「どっかに紋章があるんだろうな。」
「けれど、それらしい宝箱もありませんわね。」
「モンスターもいねーし…」
「じゃあ、みんなで探さないとねー。」
 にっこりと笑って言うルーンに、二人はため息をついた。

 夜と朝の狭間が一番美しいといったのは、誰だっただろうか。ゆっくりと朝日が紺碧の空に溶け込んでいく様は、 美しいとしか言えない。だが。
「レオンー、リィーン見つけたよー!」
 その最も美しい時、ルーンが見つけた太陽の紋章が朝日に照らされているのを、睡眠中の二人が見ることはなかったことは 事実であった。


 いやぁ、びっくり。いきなり巫女頭様、アレフ様に片思いしてます。全然そんなこと、予定にもなかったのですが、 指が勝手にそんな物語を作り上げていたり。ちなみにローレシア地方の生まれなんですが、肖像画のアレフに片恋し、 ここの巫女となった設定だったり。いやぁ、キャラって勝手に動くのですねー。

 次回はテパの方に向かいますが…今回とは逆に(笑)前々から暖めてたお話になる予定。どうぞよろしく。
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