驚いて絶句している二人に、ルーンが説明する。
「多分ね、フェオさんのルーラの基石だよね。それでね、きっとそれ、フェオさんがムーンブルクを出る時に 置いていったものじゃないかなって。」
「そうなのか…?」
 恐る恐る言うレオンに、ルーンがけろりと答える。
「だってムーンブルクの中にいるのに、置いておく必要がないでしょう?だから出て行くときに、置いていったんじゃないかな?」
「なんの…ために…?」
 リィンが、うめいた。
「兄は、ムーンブルクを嫌っていたはずです。ねえ?レオン?」
「嫌ってたわけじゃねえけど…帰るつもりはなかったと思う。」
 レオンの言葉に、ルーンも首をかしげる。
「僕も、フェオさんじゃないから、どうしてなのか、正確には分からないんだー。でもね、フェオさんは 国は継ぎたくなかったけど、ムーンブルクのことは、好きだったのかもしれないね。…それとも、もしかしたら リィンのことが、心配だったのかもしれない。」
 突然出てきた自分の名前に、リィンは目をむき…そして好戦的に言う。
「逆に、いつかムーンブルクを滅ぼすためだったとも、考えられますわね。」
「んだと!!」
 そう怒鳴ったが…それでも、レオンにはもう、否定することが出来なかった。
「そうかもしれないねー。それはわからないよー。もしかしたらルーラでいつか、 お城を攻めるために置いてあったのかもしれないし。」
 それは矛盾していたが、それを否定するだけの材料がないと言うだけのことだと、二人は分かった。
「ルーンは…フェオを信じてるのか?」
 レオンの言葉に、ルーンは首をかしげる。
「うーん…会ったことないから…信じられはしないと思うよ。ただ…」
「ただ、なんだ?」
「レオンが 大好きだった人でしょう?僕レオンなら信じられるよ。レオンのこと、大好きだもん」
 にっこりと笑う、その笑顔は天下無敵だった。
「気色悪いこと言うな!」
 すでに口癖となりつつある台詞を繰り返し、ルーンを一発殴る。ルーンはそれにめげずに、にっこりと 笑う。
「だからね、いい人だったらいいなと思うよ。リィンのお兄さんだしねー。」
 ルーンがいて、…フェオのことを知らない人間がいて、本当に良かったと、二人はそう思った。

 ずっとルーンの手にある石を見続けていたリィンが、顔を上げた。
「どうして…ルーンは今までこれをずっと持っていらしたの?」
 リィンの言葉に、レオンがルーンに詰め寄る。
「そうだ!なんで今まで隠してたんだよ!!」
 その言葉に、ルーンは手の中の石を転がす。
「…わからなかったから。」
「「なにが?」」
 見事なほど、2人の言葉がはもった。それに少し笑って、ルーンが言う。
「うーんと、何であんなところに置いてあったのかなとかー。」
「では、どうして、今、この場でわたくしたちに見せたのです?」
「うーんとねぇ…なんて言っていいかわからないんだけどねー。」
 そう前置きして、ルーンはリィンの前に立つ。
「今、リィンに渡したほうがいいんじゃないかなって思ったんだ。」
 そういいながら、ルーンはリィンの手に石を置いた。
「これは、リィンが持ってるべきだと思ったんだよ。ずっと。どういう形でも、お兄さんのものだから。」
「だからなんで、今なんだ?」
 更に問い詰めるレオンの言葉に、
「だって、今までに渡してたら、リィン捨てちゃったかもしれないでしょう?」
 けろりとそう言うルーンに、レオンはようやく声を立てて笑った。

 リィンはまだ、置かれた石を握り締めることも出来ず、呆然と見つめている。
「リィン?おい、大丈夫か?」
 あまりにも長い間呆然としていたのか、レオンがリィンの前に立って声をかける。
「…ええ。なんとか…。けれど、わたくしはこれを持っていてもいいのでしょうか…兄がハーゴンであっても、 そうでなくとも…わたくしには、わたくしにだけは、これを持っている資格がない気がして…」
 父と母の仇の持ち物。
 ずっと仇と疑っていた、命の恩人の持ち物。
 どちらにしても、これを持っている資格は、自分にはない。そう思えた。
「兄が死んでいるとしたら…わたくしに、これを持たれることを望むでしょうか…?」
「んーとねぇ…それなんだけどねー。どうして、それ、そんな風に光ってるんだろうね?」


わけが分からないレオンと裏腹に、一瞬にして意味を解したリィンが叫ぶ。
「では…兄は生きていると言うことですの?」
「どういうことだ?」
 レオンの言葉に、リィンが怒涛の勢いで説明する。
「ルーラとは石と魔力を介して、自分とその土地をつなげる魔法。 この石が兄のルーラの基石。つまり込められているのは、兄の魔力。 つながる大元の魔力の持ち主がいなければ、石は光りませんわ。石が光るのは兄の魔力に 呼応してなのですから。」
 良く分からない説明をされる。仕組みはさっぱり分からないが、ともかく光っているのは フェオが生きているからと言うことは理解した。
「…じゃあ、自分に剣を刺したけど…生きてるってか?」
「そうなんだけど…ねえ、リィン。この光…どうしてこんなに淡いのか分かる?生きてる人の 魔力を持って呼応しているには、ずいぶんと弱すぎるんだよ。」
「そうね…」
 リィンの手には、影にすら負けてしまいそうな、淡い、淡い光がある。
「それに、ルーンの基石に宿る魔力はね、その人の色が出るって言われてるんだ。…でも、それ、 何色かも分からないよ。」
「そういや、ルーンの石は翠色だったな。…で、どういうことだ?」
 レオンは考えることを放棄した。
「それが分からないからね、ずっと持ってたって言うのもあるんだよー。」
「…瀕死状態にあり、魔力が弱っている、ということではなくて?」
 リィンの提案に、ルーンは首を振る。
「そうかなって思ってたんだけど、これを拾ってからずいぶん経ってるんだよ。その間回復も 消えもしてないんだよ。不可能ってわけじゃないけど…無理があるよ。」
「そうね…では、逆に残り香のようなもの…かしら?」
 レオンは二人の会話がさっぱりわからない。いらいらしながら、二人に怒鳴る。
「それは一体なんなんだ?!」
「あんまりあることじゃないんだけどねー。とっても強力な人の魔力を長い間宿したアイテムは、その本人が 死んだ後でも、魔力が残ることがあるんだー。ただ、やっぱりとっても弱いんだー。」
「つまり…フェオは死んでるってことか?」
「わかりませんわ。兄がそれほど魔力が高かったのか…それとも、瀕死の状態がずっと続いているのか。 もしかしたらただ単にこの石が、兄のではないのかもしれません。」
「そうだね。フェオさんがハーゴンなら、もっと別の理由があるのかもしれないね。」
 三人で石を囲んでいたが、レオンが唐突に旅の支度を始めた。
「あー、もうどうでもいいや。とっとと行こうぜ。」


「どうでもいい?」
 リィンがレオンをにらむ。だが、レオンはまったく意に介さず、火の後始末をしている。
「結局なにもわからねえんだろうが?ムーンペタの町でもおんなじことしなかったか?俺ら。 どーせ旅を続けるんなら同じだろ?その石が…その、ルーラの基石なら、うまく行きゃフェオが 向こうから飛び込んで来てくれるだろう。そんときまで旅を続けようぜ。」
「昔ねールーラが良く使われていた時にはねー。そういう犯罪があったらしいよー」
 レオンの言葉にずれた答えをルーンは返す。
「犯罪?なんじゃそりゃ?」
「だからねー、相手のルーラの基石を火山に入れるとか、海の深いところに落とすとかすれば、相手を暗殺 できるでしょう?だからね、ルーラの基石の守り人さんってたいへんだったんだよー。」
「お前、そんなもん見ず知らずの人間に預けてんのかよ…」
 レオンのあきれた声に、ルーンは笑ってごまかして。それからリィンを見た。リィンはただ、 ぼんやりと石を見ていた。
「悩ませちゃって、ごめんね、リィン。辛かったら、僕持ってるよ。」
「ルーンは…」
 リィンが顔を上げる。そこには、本当に平和そうに笑うルーンがいて。
「ルーンは、わたくしが持っていたほうがいいと思ってる?」
「うん。リィンがいいなら、きっとその方がいいよ。ねぇ、レオン。」
 突然話を振られ、少し考えるが、レオンも頷く。
「俺には魔力だのなんだのはわからねえしな。お前持っとけよ。」
 少しの思考。そしてリィンは勢い良く荷物に石をしまいこんで立ち上がる。
「さぁ、さっさとテパに行きましょう…一刻も早く紋章を集め…ハーゴンを打ち倒さなければ!」
 高飛車に。いつもどおりに、リィンは言った。
「おう。」
「うん!」
 そして二人はいつもどおりに、そう答えた。


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