すっかりやる気をなくしたレオンを引きずりながら、二人は武器屋に向かう。
「レオンー、やる気出してよー。」
「いーじゃねえかよ、もう。竜王本人にフォローさせろよー。」
「レオン、わたくしは、出来るならムーンブルクの復興を頼みたいと思っております。ですから、少し我慢してくださる?」
「王弟でもいーじゃねーかよー。」
 すっかりやさぐれたレオン。その発言で切れたリィンが、言葉の刃を放つ。
「王位継承をしたわけではないのですから、いくらなんでもそこまでは約束出来ないと、はっきり断られましたわ。 やる気がないなら後ろで突っ立っててくださって結構ですから、せめてもう少ししゃっきっとして下さる?」
「あー。わぁったよ。」
「着いたよー。」
 そんなことを言っている内に、三人は武器屋の前についていた。
「じゃあ、とりあえず武器屋さんに挨拶しよー。」
 レオンがそういうルーンの襟首を掴む。
「やめとけ。前に言った時に、ここも絶対二階にあがらせてくれなかったんだよ。」
 そういうと、とっとと裏口から二階に上がる。幸い人はいないようだった。
「えー、でもー。」
「ルーン、レオンの言うとおりよ。もし、ここにラダトーム王がいらっしゃるなら、店長は決してここに あげては下さらないと思うわ。」
「とっとと確認して、駄目だったら謝ろうぜ。一応王弟からの依頼なんだから許してくれっだろ。」
 鍵を手に取ったレオンをリィンが制す。
「一応わたくしが開けますわ。ここにいるのが王ではなくて女性の私室なら下手をすれば変質者ですしね。」
「ああ、頼む。」
 レオンから鍵を受け取り、リィンは扉を見つめた。その向こう側に確かに人の気配がする。リィンは ノックした。
「申し訳ございません、少々お尋ねしたいことがありますの。ここを開けてくださる?」
 しばらくの沈黙。
「わしは、ただの武器屋の隠居じゃ。知ってることは何もないぞ。」
 声を出したのが、運のつきだった。三人は顔を見合わせ、リィンは鍵を開けた。そして勢い良く扉を開ける。
「いいえ、そんなことはありませんわ。わたくし達が探していたのは貴方なのですから。」
「やっと見つけたぞ!ラダトーム王!」
「弟さんが待ってるよー、帰ろうよー。」

 王の足元には、酒瓶が何本も転がっていた。顔は赤く、部屋全体に漂うお酒の匂いが、気持ち悪かった。
「わしは、武器屋の隠居だと言っておる!弟なんか知らん!!」
 怪しい呂律で、ラダトーム王が怒鳴った。だが、そもそもそれでごまかせると思うほうがおかしい。 三人は何度も目どおりしたことがあるのだから。
 だが、おそらく酒が回った頭では、自分たちの事を知覚出来ていないのだろうと、リィンは判断した。略式ではあるが、 敬意を表する礼を見せて、ラダトーム王の前に立つ。
「わたくしを覚えておいでですか?」
 じっと見つめるが、リィンのような圧倒的な美の持ち主はそういない。
「…リィンディア姫か。ムーンブルクの話は聞いておる。」
「生前の父とは仲も良く親交も深かったと聞いております。やがて復興する際の支援のお約束を取り付けに参りました。」
 女王の威厳を持って、ラダトーム王に言ったその言葉は、王には聞こえてなかったようだった。
「美しくなったな。わしとて寄る辺のない小鳥に冷たくするほど愚かではない。そなたに止まり木を与えてやろうか。 我が後宮に入るがよい。」
「いいえ、わたくしはムーンブルクを元に戻すことが望みです。それがたとえ、今までのままではないとしても。 そのためのご助力のお約束をいただきたいのです。」
「おぬしはもはやただのムーンブルクの娘だが、遠慮することはない。 確かに我が妾妃となるが、わしに他に妾はおらぬ。そなたは実質第一位じゃ。」
 話がかみ合っていないことだけは、良く分かった。リィンの顔が険しくなる。
「おぬしは我が歴史ある王宮で歴史を、平和を囀るがいい。召抱えてやろう。こちらに来るが良い。」
 そう言って、ラダトーム王は、リィンの腕を引いた。リィンの体が倒れこむ。

「リィン!」
 駆けつけようとするルーンを、レオンが押しとどめた。
「レオン!」
「黙って見てろよ、ルーン。」
「レオン…」
「あいつは俺に、後ろで突っ立ってろって言ったんだぜ?」
 不敵に笑いながら、リィンの方をあごで指した。そこには、ラダトーム王の前に立ち、 美しく恐ろしい笑みを見せるリィンが居た。

 リィンは、ラダトーム王の手を跳ね除ける。うろんな目をしたラダトーム王は、気分を害したようだった。
「…わしの誘いを断ると言うのか?」
「わたくしを、誰だと思っていらっしゃるの?」
 リィンは、ラダトーム王の様子になど、もはや構わなかった。
「貴方は自らを武器屋の隠居と称されました。わたくしはムーンブルク王家最後の一人。武器屋の隠居が 妾にですって?一体なんのつもりですの?」
 部屋中が響くような声に、ラダトーム王は絶句していた。
「そのようなことを言えば、不敬罪で捕らえられてもおかしくなくてよ?貴方に少しでも理性がおありなら、 もう少し考えてはどうですの?」
「わ、わしは」
 何か言い返そうとしたが、その言葉をさえぎる。
「貴方は確かに自分はただの武器屋の隠居だとおっしゃいました。違うのと言うのですか?違うとおっしゃるのでしたら、 では何故このようなところに身を置き、自らを偽るのです?」
 高飛車に、白々しくリィンは言ってのける。
「…覚えておきなさい、武器屋のご隠居様。不敬罪でわたくしに打ち首にされても、誰も何も疑問に 思わないということを…」
 リィンのその声に完全にすくみ上がるラダトーム王。
「わたくしが恐ろしくて?でも安心してくださいましね?ラダトーム王には間違ってもこんなことは申しませんわ。 …貴方がムーンブルク女王に、妾になれなど言わないように。」
 こくこくと、声もなく頷く。すでに酔いなど覚めているのだろう。目を見開いて、リィンの顔を 見つめていた。そこに秘められたるは、間違いなく女王の威厳。勇者の血筋。
「貴方の奥底に眠るラダトーム王にお伝えくださいませね。ムーンブルクへのご助力をお願いすること。… そして、貴方が感じている以上の恐怖を、貴方の国民と弟が感じていることを…」
 それだけを言って、ラダトーム王に背を向ける。
「行きましょう、レオン、ルーン。」
「ああ。」
「うん。」
 扉を開け、三人は部屋を出た。…そして、扉を閉める直前に
「…復興を手がける際には、声をかけるがよい…出来る限りのことはしよう…」
 蚊の鳴くような小さな声が、たしかに聞こえた。


 あうー、お待たせしました。一週間遅れてしまいましたが、ようやく書けましたので、お届けいたします。 ちなみに妙に難産だったのは、船の上の会話。いっそ削ろうとかレオンとリィンの会話にしようとか いろいろ思案しましたが、ようやく書きたい物が書けました。待ってくださった皆様に感謝です。
 今回の主役はレオンでしょうかリィンでしょうか。なんだか意図しないところで、レオン君 どんどん苦労人になってるんですが。不思議だ…。頑張れ!竜王とはいつかきっと和解できる…さ。うん。
 次回はペルポイあたりの予定。そろそろ終盤に差し掛かってきたなぁ・・・

戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送