「すっげー…」
 あっという間に殲滅した威力を見て、レオンはあんぐりと口を開ける。
「良かったー。成功したー。」
 にっぱりと笑うルーンに、リィンも惜しみない賞賛を与える。
「すばらしいわ…あれだけのモンスターが一瞬に…コントロールも大変でしょう?」
「あははー、でも、リィンの呪文の威力には適わないよー。」
「でも、わたくし炎は苦手なんですもの。」

 そんなことを言っているうちに、徐々に大陸が見え始めた。ペルポイがある半島がすぐそこに見える。
「そろそろ準備すっか。」
「そうだねー。」
 部屋に戻り、荷物を整え、防具を付ける。そうして船はゆっくりと岸にたどり着いた。レオンが 岸に飛び降り、板を渡す。
 リィンがまず板をわたり、ルーンが最後に降りる。毎度の光景だったが、ちょうどその時、 船が波で揺れた。バランスを失いよろけたルーンの左腕を、レオンは身を乗り出してがっつりと掴んだ。
 ぐに。
「…ぐに?」
 感触が、どこは変だった。ルーンの顔を反射的に見ると、顔をしかめていた。
「…どうしたんだ?」
 すぐさま手を離す。ルーンがにぱっと笑う。
「えへー、実はねー。さっきの、ちょっと失敗しちゃったんだー。火傷しちゃったんだよねー」
「ルーン、回復呪文、かけますわよ?どうして言って下さらなかったの?」
「だって、せっかく成功したのに恥ずかしかったんだよー。」
 笑いながら、ルーンは自分で回復呪文をかける。
 そして、それを見ながら、レオンは大爆笑をした。つられてリィンも笑う。
「しかたねーな、お前は。」
「ルーンは相変わらずね。」
 そして、ルーンも笑う。笑いながら、地図を見て。笑いながら大地を歩いて。三人はペルポイを目指した。


「…何もない。」
 ペルポイがあると記されている地図の場所。そこには小さな掘っ立て小屋が一個、ぽつんとあるだけだった。
「間違えたか?」
 三人で地図を覗き込む。だが、確かにここだった。
「どうして、何もないの?」
「変だねー。もしかして…」
 不吉な予感が三人の頭に駆け巡る。この町は、手遅れだったのだろうか?そう思ったときだった。レオンの肩に、手がかかる。
「貴方は、ここの人ですか!!」
 必死の形相の男性だった。心なしかくたびれた格好をしている。
「…お前は?」
「どうしたんですかー?」
 にこやかに笑うルーンの表情を見て、男性は泣き出した。
「ああ、貴方たちはペルポイの人ではないのですか?」
「落ち着いてくださる?どうなさったの?」
 リィンの言葉に、ほっとしたのか、男性はリィンの胸にすがり付いて泣き出した。
「じ、実は私が少し山へ行っている間に、みな私を置いて、どこかに行ってしまったのです!!」
「それ、本当?」
 男性の腕を引っ張りながら、ルーンが聞いた。男性はリィンから離れ、頷く。
「はい、ほんの2日ほどでした。私は炭焼きに行っていたのですが…気がつくと、何もありませんでした。 家財道具どころか家もなにもなく…私はただ、ここで皆が帰るのを待つのみなのです…」
「そこの小屋に住んでるのか?」
 レオンが、近くにある掘っ立て小屋を指差す。男性は首を振る。
「いえ、私もそうしようと思ったのですが…あの小屋ぼろそうに見えて、扉は立派なのです。金の縁取りをしてある 扉で、鍵がかかっていて…」
「とりあえず、このようなところで話すよりは、あの中に入ったほうが良いのではなくて?」
「でも、開かないのです!窓もないですし!」
 涙ながらの言葉の向こうで、ルーンは扉に金の鍵を差し込んだ。
「開いたよー。」
「おー、なんかあるかー?」
「行きましょう?」
 あっさりと開いた扉に、男はぽかんとして見つめた。


 部屋の中には地下への階段がひとつ。四人は無言でその階段を下りた。
 奥からは確かにざわめきが聞こえてくる。
「人がいるな。」
「ええ、気配がいたします。それも複数。」
「町の人が、いるといいねー。」
「はい!」
 なき濡れながら男性は歩いた。深い階段だったが、やがて終わりは来る。灯りが見える。
「…町だ…」
 それは、立派な町だった。あちこちに灯りが付き、人々を照らす。地下にあるとは思えない、立派な町だった。 人は笑顔で街中を歩き、商売の声があがる。
「…ペルポイだ…ペルポイの町、そのままだ…!!」
 そう言うと、男性は飛び上がるように走っていった。おそらく家に帰るのだろう。
「…よかったねー。」
「礼くらい、言っていけよなー。」
「まぁ、しばらく家族に会っていなかったのですもの。喜んで当然ですわ…」
 しみじみと言ったリィンの言葉に、二人が沈黙した。
「どうしましたの?あちらのほうに市がありますわ。参りましょう?」
 リィンはけろりとして、二人を誘った。
(やっぱ、リィンは強ええよな…)
 そんなことを思いながら、レオンは後をおった。

 市はにぎやかだった。おそらくなにかしかの手段で鍵を手に入れた商人も多いのだろう。旅人らしきものも、 嬉しそうに商いをしていた。
 何人かに話を聞くと、ハーゴンを恐れて、町を地下に作ったらしい。他に漏れないように内々で準備を進め、いっせいに 消える計画だったが、あの男はその日にたまたまいなかったのだろう。つくづく運のない男だった。
「あ、みてみてー、かわいいよー。」
 怪しい露天商の前で立ち止まったルーンが香水のビンを見せる。ふたの部分がラーミアを象っていて、なかなか美しかった。
「あら、綺麗ね。」
「匂いもね、いいんだよー。」
「おまえら…女じゃねえんだから、香水で騒いでんなよ!!」
 レオンの突っ込みに、リィンは眉をひそめる。
「…わたくしは女ですわよ?レオン。」
「いや、リィンに言ってねえよ。」
「さっき『お前ら』っておっしゃりませんでした?」
 そう言いあっている間に、ルーンは店員と話をして、嬉々としてその香水を購入した。
「ごめーん、行こうかー。」
 にっこり笑うルーンを見ると、もう怒る気もうせた。
「ああ…」
 心底呆れながら、レオンは歩く。そして、少し人通りが途切れたところで、ルーンは立ち止まって こう言った。
「ところでねー、ここ、牢屋の鍵、売ってるんだってー。」

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