「ああ、そうか。…あ?!」
 さらりと流そうとしたレオンが止まる。
「なんですって?ルーン、どこから聞きましたの?」
 二人に詰め寄られるルーン。ルーンはにこやかに笑う。
「あのねー、さっきの香水ね、合図だったんだってー。裏のマーケットの。で、教えてくれようとしたんだけど、 僕、牢屋の鍵は欲しいけど、そんなつもりで買ったんじゃないって言ったら、ヒントだけ教えてくれたんだー。」
 その言葉に、レオンはルーンの襟元を掴む。
「なんで最後まで聞かねえんだよ!!」
 がくがくとゆすぶられながら、ルーンは笑顔で答える。
「本当はね、情報料を払って、あの香水を買うことを教えてもらって、情報を得るんだよ?お金払わないで情報 もらっちゃったら可哀想だもん。でも正直者って褒めてもらったよ。だからヒントだけ教えてもらったんだー。」
「でも、それでは他の一般客も買ってしまうのではなくて?」
 ようやく解放されたルーンに、リィンは当然の問いをする。
「男が買ったからだって。香水なんて見るのはたいてい女性でしょう?男性がね、プレゼントで買う場合は、たいてい もっともじもじしてるから、すぐ一般客だってわかるんだってー。」
(確かに、ルーンは自然だったよな。…絶対おかしいだろ)
 どう考えても、その香水は女物だった。普通は手に取るだけでも恥ずかしい。
「お前は、それをわかって買ったのか?」
「ううん、僕、香水欲しかったの。」
 けろりと言うルーンに、レオンはまたしても頭を抱える。
「…そんなもん、どうするんだよ…」
「え?レオン知らない?香水ってね、こうやって体にふるんだよ。ほら、良い匂い。」
 ルーンが体に香水を付ける。花の匂いがほのかに香った。
「…つけんなよ!男が、女物の香水を!!」
「えー、いい香りなのにー。」
 はぁ、とレオンがわざとらしくため息をつく。
「まぁ、でもすげえ偶然だよな。良くうまいこと、その香水を手に取れたもんだよ。」
 そこで、ずっと黙っていたリィンが、ぼそりと口にする。
「…ラーミアだからですの?」

「あ?」
 疑問を顔に浮かべたレオンを置いて、ルーンは頷いた。
「うん。珍しいよね。うちじゃ、ラーミアはロト王家しか扱っちゃいけないものだったから、不思議だなーって。」
 その言葉に、レオンも気がつく。ラーミアはロトをアレフガルドへ運んだとされる、伝説の神鳥だ。 それを象ったものを持つことは、ロトの血を引くものしか許されない。少なくとも ローレシアでもそうだった。ペルポイではどうなのかは分からないが。
「わたくしの近くにはいつもラーミアのアクセサリーなどがありましたから、気がつきませんでしたわ。」
「そういやそうだな。」
「あははー。うん、良かったよ。でね、さっきの人、こう言ってたよ。『この町のどこか店で売ってる。ただし、 その名を一言も口にするな。』だって。」
「口に出さず…?難しいですわね。何か合言葉でもあるのかと思いましたけれど…」
「まさか堂々と飾ってあるわけじゃねえだろうしな…」
 三人が考え込む。
「どこかの店ってことは、露店じゃねえってことだよな?」
「それでも結構な量ですわね…」
「でも、もともとどんな武器防具があるかわからないんだし、全部のぞいてみようよ!おかしなところがあるかもしれないよ?」
「それしかねえか。まぁ、ここにあるって分かっただけでもありがてえよ。」
「ルーンのおかげね。ありがとう、ルーン。」
「えへへー。」


 そうして、一件一件店を巡る。目の玉が飛び出すようなミンクのコートの値段に驚き、ものすごい切れ味の光の剣に 憧れの視線を送る。
「さすがに、鍛治師の町ですわね。武器防具がすばらしいですわ。」
「あの盾回復すんのか…」
「僕、欲しいなー。あれ。」
 三人でわいわいと話しながら町を巡るのは、とても平和で楽しかった。武器や防具。便利そうなアイテム。時には服や アクセサリーなどを見るのは平和な頃から一度もしたことがなかったのだ。レオンが抜け出す時はいつも 一人だったし、リィンにいたっては城で与えられたものを着ているだけだったのだ。
 旅も、使命も仇も、何もかも忘れてしまうような時。それは、悲しいほど幸福な時だった。

「ここが、最後か?」
 30件ほど店を回っただろうか。目の前にある店は、小さな道具屋だった。
「普通の道具屋さんですわね。」
 薬草や毒消し草が軒に並び、『キメラのつばさ、大安売り!』という張り紙が壁に貼ってある。
「普通だねー。」
「まぁ、見るからに怪しいところには足を踏み入れたくねえけどな。」
「それはそれで楽しそうだよー?」
 ルーンの意見をさっくりと無視して、レオンは扉を開ける。店主の声がした。
「何が必要なんだ?」
「何があるんだ?」
「見りゃわかるだろ。」
 どこかぶっきらぼうな店主だった。どうやらあまり儲かっていないのだろう。埃をかぶっているものもたくさんある。
 料金表にも埃がかぶっている。そんな中、リィンがおかしなことに気がついた。
「ねえ、これ見てくださる。」
 ぽそりと小声で、レオンにつぶやく。
「なんだ?」
「ここ、開いておりますわよね。」
 リィンが料金表を指差す。それは何の変哲もない料金表だった。だが、毒消し草とキメラのつばさの間がぽっかりとした 空間が開いている。
「売り切れとか、品切れじゃねえの?」
「そう考えたのですけれど…ほら、ここ見てくださる?この一部分だけ、埃がついておりませんの。」
 そう指差したところは、たしかに丸く埃がはげていた。
「指差した…って感じだよね?ボタンかな?押すとなにかなるのかな?」
 レオンの肩から、にゅっとルーンが顔を出す。
「……ねえ、たとえば風邪で喉がかれてしまったときに、水が飲みたい時はどうします?水差しは すぐ近くにあるけれどベットから動けない…そんな時には。」
 リィンの言葉の意味を、ルーンは読み取った。レオンも、頷く。
「おやじ、これくれ。」
 レオンはその箇所を指差し、堂々とそう言った。…それは、通常なら怪しく、怪訝に見られる光景だろう。だが。
 店主はにやりと笑った。

「おっと、誰から聞きました?」
「…さてな、誰からだっただろうな。」
 そ知らぬ顔で、レオンは言った。実際聞いたのは自分ではないのだ。
「これはちょっと値が張りますぜ?いいですかい?」
「本来値段のつくようなもんじゃねえだろう?」
 親父にも負けない怪しさで、レオンはにやりと笑う。
(似合いますわね…)
(すごいねー、レオン。なんでも出来るよー)
 後ろでぼそぼそとつぶやく二人。レオンは一瞬ぎろりとにらみ、親父に笑う。
「ではお売りしましょう。でも、誰にも言わないで下さいよ?」
 そういうと、レオンに財布を出すように促す。そして金をつかみ取り、数える。掴んだ額では足りなかったようで、 もう少し掴んだ。しばらく数えたあと、満足そうに笑う。
 そして、レオンの手に、金属の欠片を掴ませる。
「ありがとうよ!!」
 店主はにやりと笑う。レオンも。その金属が複雑な形をしていることを読み取り、笑う。
「おお、さんきゅ。」
 そういうと、二人を連れ立って、レオンは店を出た。


 外に出ると、もう夕暮れの時間だった。…もっとも太陽が出ていないので良く分からなかったが。
「宿を取って休みます?」
「そうだな。」
 三人は宿に向かって歩き出した。だが、すぐにレオンが立ち止まる。
「どうしたの?」
「…竜王に封印されたアレフガルドってこんな感じだったんだろうか・・・」
 レオンが石の空を仰ぎ見ながらそう言った。だが、ルーンは自信を持って断言した。
「全然違うと思うよ。」
「何が違いますの?」
 リィンも足を止めていた。三人で、石畳の空を見上げる。
「皆、希望を持ってここにいるから。だから全然違うよ。」
 ルーンの笑顔に、二人が答える。
「…そうだな。」
「ええ、そうですわね。」
 ここに見える石畳は世界を隔絶するものではない。世界から守るためのものだった。
「それでも、早く出してあげられたら、いいね。」
「…そうね、一刻も早く…ハーゴンを倒せたらいいわね。」
「ああ、そうだな。」
 …石畳から流れる風が、唯一外からの空気を伝えていた。


 自分で言うのも、なんですが。…どうやって動いてるんだろう、船って。
 なんとなく三人の旅に一般人が参加している姿は想像しがたく、魔力で動いているイメージがあります。 方向性や複雑な動きはできないけれど、簡単な方向性なんかは魔力で勝手に動くんです、きっと。そんな理屈で お願いします。
 次回はペルポイ編その2です。一つの町で二話書くのって久しぶりですねー。嬉しいです。

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