「ありがとうございますぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーー」
 水門の鍵を見せたとたん、若者はレオンに抱きついた。
「もう、どうしようかとずっと思っておりました!!ああ、これでご先祖様に顔向けがーーーーーーーーーーー!!」
「わかった!わかったから離れろ、きしょくわりぃ!!」
 強引に男を引き離し、レオンは息をついた。
「それで、満月の塔に入りたいですわ。門を開けてもよろしくて?」
「はい!!もちろんです、こちらに来てください!!」
 そう言って、男は裏手に駆け出した。そしてすぐ建物の影に隠れて見えなくなる。
「うわぁー、喜んでたねー、良かったねー。」
「それはよろしくても、一体わたくしたちどちらに行けば…」
「とりあえず追いかけようぜ!」
 程なく、建物の影から大声が聞こえる。
「みなさーん!!こっちです!こっちに水門があるんです!」
「畜生、管理人だっつーならちゃんと案内しやがれ!!」
 レオンの怒鳴り声を聞きながら、三人は村の裏手に走った。

 そこは、村の規模を考えると場違いなほど、大きな建物だった。
「とっても綺麗だねー。」
「ええ、ここは村を守る場所ですから。」
 ルーンの言葉に応えた若者の横に、老人が立っていた。
「そちらの方はどなたですの?」
 リィンの視線に、若者は苦笑する。
「私の祖父です。水門の鍵が盗まれてから、ここを動こうとしなかったのです。」
「…水門を開けよ。さすれば渇ききった川にも流れが戻るであろうぞ。」
 老人が重々しく言った言葉に、リィンは頷いた。
「そうすれば、満月の塔へ行けるのですわね。」
「はい、あの乾いた川と海が繋がり、この村が今のように何日もかけて行き来しなくてもすむようになるでしょう。」
 若者の言葉に、レオンがしばし考え、若者をぎろりとにらむ。
「…つーことは、俺らが重い思いして長旅したのは無駄だってことか?」
「さ、さあ、では水門の鍵を開けましょう!皆様着いてきてください!」
 くるりと背を向けて歩き出した若者の声が動揺に震えていたのは、おそらく気のせいではないだろう。
「ちっくしょう…」
「もう言っても詮無いことですわ。行きましょう、ルーン、レオン。」
「うん!」
 若者は、建物の横にある、小さなさび付いた扉を開けて、中に入る。
 驚くほど、狭い階段を下る。おそらく多人数が同時に入ることはほとんどないのだろう。
 すぐ、下についた。そこも四人居ればいっぱいの小さな部屋。あるものは、鍵穴。そして、水音。
「ずっと締めっぱなしで飽和状態でした。どうか、この鍵穴に鍵を差し込んで、解放して下さい。」
 その言葉に、リィンは鍵を取り出す。宝石で彩られた彫刻がある、なかなか見事な鍵だった。ラゴスが盗むだけはある。
 リィンはその鍵を、そっと鍵穴にあてがう。しばらくまわされていない鍵は、なかなか重くて回らない。
「だいじょうーぶ?」
 ルーンはリィンの手に、自分の手を重ねて鍵をひねった。だが、重い。少し回ったが、水門が開くには至らない。
「水がずいぶん溜まってますからね。その重みが伝わっているのでしょう。」
「しゃーねーな…」
 頭をかきながら、ルーンの逆側のリィンの横に立つ。そして二人の拳をにぎりこんだ。
「「「いち、にの…」」」
 同時に出た三人の声に、それぞれが力を入れる。
「さん!!!」
 その言葉は、一気にあふれ出た水門に消された。


 それは、圧倒と言うしかなかった。
 水門から飛び出し、河が見える位置に行った頃には、すでに渇いていた河が幻のようになみなみとした青い水が、 海へと繋がっていた。
「すげえ…」
「水がきれいだね…塔へと流れていってるよ…」
 流れが、そのまま河の中洲にある満月の塔へと取り巻いている姿は、三人を満月の塔へと導くかのようだった。
「これで、満月の塔へ行けますわね」
「小さな舟を一艘お貸しします。あちらに渡るならそれで十分だと思いますよ。気をつけてください。」
 ふりむくと、後ろに門番の若者がいた。
「こちら、お返ししますわ。大きなお世話かもしれませんが、もっと地味にお作りになったほうが よろしいですわよ。」
 きらりと光る鍵の宝石を見ながら、リィンはくすりと笑った。
「そうですね。この村は小さな村ですから、なくさないようにと豪華に作ったのですが、それがあだになるとは… また考えさせていただきます。」
 鍵をリィンの手から受け取りながら、若者も笑った。

 そして三人は、満月の塔へとこきだした。


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