「…では、私はまたしばらくこの中で眠りましょう。困ったことがあれば、いつでも力になります。何か 聞きたいことはありますか?」
 ローラの言葉に、リィンが少しばかり考えてから言った。
「ローラ様がここにいらしたと言うことは…ハーゴンは、兄ではなかったと言うことなのでしょうか?」
 リィンの言葉に、レオンが息を呑んだ。ローラは悲しげに言った。
「申し訳ありません。私にも、それはわからないのです。何故なら、儀式の間にいたのは、私ではなかったからです。」
「…それはどういうことなのですか?」
 ルーンの言葉に、ローラは頭を下げる
「フェオストラスの儀式が終わったころ…ローラの魔力はほぼつきかけておりました。復活の玉に ひびさえ入り…輝きは陰り、私の姿さえかすんでおりました。ですから国の者は恐れたのでしょうね。儀式の 最中に、復活の玉が割れてしまうことを…ですから、国の者は15年間、復活の玉の模造品を作っていたのです。 もう何十年も精霊の儀式以外で外に出されることがなかった復活の玉が、何度か宝物庫から出され、魔力を秘めた 美しい玉を作っていたのです…国王と儀式に関わる一部の者以外には決して知られることがないように…」
「…では、わたくしが一度だけ見た、あの日の復活の玉は…偽物だったのですね?」
「はい。貴方の儀式の日、私は宝物庫におりました。そして足の速いモンスターが私をかすめ盗って行くのを感じました。 おそらくきらきらした物が好きなのでしょうね。…そして、偽物が作られていることは、フェオ自身もおそらく知らなかったはずです。 …ですからわからないのです。お力になれないこと、申し訳ありません。…ですが。」
 ローラはリィンを優しく見つめる。それは母の愛を込めた目だった。
「フェオが偽物の存在を知らないからこそ、私は今までモンスターに所有されていたのかもしれません…ですが、 私が知っているフェオは優しい方でした。一国の王となるには優しすぎるほど…神に自らさえ捧げ、世界の全てを 守りたいと願うほど、優しい方でした…フェオが誰かを殺してしまうことなど、とても信じられません。… それでももしそう変わってしまったのなら、一体何がそう変えてしまったのか…私には考え付かないのです。」
「はい…」
「リィン、貴女に流れる血を信じなさい。そして同じ血が流れるフェオの血も…できれば信じて欲しいと私は 思います。」
 ローラの言葉に、リィンが恐る恐る言葉を口にする。
「…ローラ様は、わたくしがフェオを仇と討つことをどう思われますか?」
「…血の過ちは血でしか償えないといいます。…代償は常に失われしものと等しいものだと。…ですが、 心からの悔恨と悲しみ、いつくしむ感情以上に重きものはないと、私は信じております。…それですら償わない、 精霊の加護を捨てた存在になっていたとすれば…それは、残された貴女自身が望む償いをさせ、何よりも貴女が 幸せになることが、失われし者の餞になる…私はそう思います。」
「…そうですね、ローラ様。わたくしは、わたくしの信じる道へと進みますわ。」
 そういうと、リィンは背筋を伸ばした。弱い顔は捨て、気高い精霊の子の誇りを身にまとった。ゆっくりと 復活の玉を持ち上げる。
「…それでは、ローラ様。…わたくしと共に、旅をしてくださいますか?」
「私のような、過去の残り香でよければ…」
 ローラがそう言った時だった。マントを再び身にまとったレオンが声を上げる。
「…あれ?じゃあ、なんでローラ姫はそんなにはっきりとした姿で映ってるんですか?それに、 ひびなんて…ない…」
「そう言えばー、そうだねー。ローラ様、とっても綺麗だもの。」
 ルーンがそれを認める。復活の玉も、ローラもまるで生まれたてのように美しく輝いているのだ。 とても魔力が切れているようには見えない。
「…レオン…貴方が尋ねるのですね…」
「…え?」
 まじまじとローラに見つめられ、紅潮した頬を背けるレオン。
「…いつか、わかる時が来るでしょう。貴方が真にそれを望んだ時、そこに答えがあるでしょう…」
 ローラはそう言うと、そっと姿を消した。復活の玉の中で眠ったのだろう。
「…一体、なんなんだ?」
「どうしてなんだろうねー?」
「良くわかりませんけれど…参りましょう?ローラ様のお気持ちに応えるためにも、わたくしはハーゴンの元へとたどり着きますわ。」
 リィンの言葉に、レオンが笑った。
「そうだな。その通りだ。」


 ほどなくして、最上階の隅に隠された扉を見つけた。銀の縁取りの扉の鍵でしっかりと封じられた部屋には、小さな階段があった。 三人はその階段を降りる。そうして小さな部屋にある階段を何個か降りたときだった。
「…来たな、運命の子等よ…」
 暗闇の向こうから老人の声が響く。
「誰だ!!」
「わしはただの老人じゃ。」
 飄々とした笑い声が響く。老人の横には小さな宝箱があった。
「…もしかして…貴方は月のかけらの守り手ですか?」
 ルーンの言葉に、老人が頷く。
「まぁ、似たようなもんじゃな。おぬしら、これが目当てなのじゃろう?」
「…これを、取っていってもいいんですか?貴方はこれを守っているんですよね?」
 ルーンのいたわる言葉に、老人は笑う。
「月、満ちて欠け、潮満ちて欠ける…全てはさだめじゃて。おぬしらがその宝箱を開けることもな。」
「ありがとうございますわ。感謝いたします。」
 リィンが頭をさげ、そしてレオンがそっと宝箱に触れた。宝箱は音も立てずに開いた。そこには美しい小さな鏡 があった。そして、その鏡には不思議なことに夜空と月が映しこまれていた。
「…これが…月のかけら…不思議なもんだな。」
「…それは潮の満ちひきをもたらすもの。上手につかいなされ…」
「ああ。わかったよ、努力するぜ。」



 リレミトで外に出ると、レオンは伸びをする。
「やっぱダンジョンは疲れんなー。」
「あははー。外の空気はおいしいよねー。」
 ルーンの笑い声の横で、リィンは空を見つめた。
「…世界が違って見えますわ。今までより、もっとずっと美しく見えます。…不思議ですわね。 今までと変わったところなんてないのに、確かに体に宿った精霊の加護を感じますわ…」
「わかるよ。僕もそうだったよー。今までより、もっともっと全部が好きになったよー。」
「…俺もだ。」
 そうして三人の精霊のこどもたちは微笑みあった。世界の祝福を感じて。
「さあてと、もう一人じーさんに会ってくっか!」
「あー、そうだねー、忘れてたー。水の羽衣だよねー。」
「…羽衣なぁ…女の着るもんだよな。リィン、着とけよ。」
 嫌そうなレオンの言葉に、リィンが笑う。
「当たり前ですわね。わたくしにこそ似合いますわよ。」
「うん、リィンが着たら、きっと綺麗だよー。」

 ゆっくりと村へと向かう三人に、確かに精霊は微笑みかけていた。


 精霊の儀式完了です!もう絶対絶対書こう!と決めていたところですので書けて本望でございます! ついに「精霊のこどもたち」が三人そろいましたし!嬉しいですねー。
 できるだけ「絵に浮かべたら美しい光景」を心がけましたが、上手く表現できていれば 幸いです。



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