「ごめんねー、おまたせー。」
 扉が開き、ルーンが旅荷物を持って部屋に戻ってきた。
「それで、逃げるの?」
「というか、一体なんだって窓から来たんだ?しかも荷物持って。」
 レオンの言葉を聞いて、リィンの顔がゆがむ。
「ずいぶんな言葉ですわね。わたくしがここを聞き出すのに、どれだけ苦労したと思っていらっしゃいますの?」
「苦労って…聞いて教えてくれなかったの?」
 ルーンの言葉に、リィンが苦笑した。
「なだめて、脅してなんとか…と言ったところですわね。」
「そりゃ気持ちわりーな。何企んでやがるんだ、あのおっさん。」
 レオンの言葉に、リィンは笑う。
「それは簡単ですわ。おそらく、わたくしを妃か妾にしようと思っているのでしょうね。」
 その言葉に、レオンは身を乗り出す。
「お前…なんでそんなことわかるんだよ。聞いたのか?」
「聞かなくてもわかりますわよ。わたくしの部屋は後宮にありましたのよ?」
 レオンは目を見開いた。ルーンはのんびりとリィンに聞き返す。
「後宮って、たしか、えっと…」
「王妃を初め、妾妃やその子供達が住まう宮のことですわ。初めて見ましたけれど、ああいう場所は雰囲気や行きかう メイドの様子でわかるものですわね。」
 リィンがため息をつく。レオンが、真剣な声で聞き返す。
「…それは確かなのか?」
「それを確かめに来ましたのよ。」
 リィンは立ち上がり、レオンの部屋の調度品を調べ始めた。たんすの中や、バスタブの中、壷の中や鏡台を丹念に調べ、 ため息をついた。
「やはり確かですわ。おそらくわたくしがレオンたちと旅をしていることを知っていて、以前から準備していたのでしょうね。」
「どうしてわかるの?」
「わたくしの通された部屋には、わたくしと同じサイズのドレスが並んでおりましたわ。 この国の風習として、王族にはそういう準備をして持て成すものかもしれないと思ったのですけれど…レオンとルーンの部屋に それがないのですから、その可能性も消えましたわね。」
 リィンは椅子に座りなおした。


「つまりー、最初からリィンをこのまま閉じ込めるつもりだったのー?」
「まぁ、後ろ盾を求めに来たと思ってたんじゃねーの?まぁ、無謀だと思うけどな。」
 ルーンの言葉に、レオンが肩をすくめる。
「ええ、デルコンダル王にとって、わたくしは国もない、ロトの血を引くだけの娘ですもの。どうとでも できると思ったのでしょうね。…歴史あるラダトームと違い、デルコンダルは歴史やロトの血というものに こだわっていると聞きましたから、このチャンスを逃す手はありませんでしょうね。」
「んで、逃げようと思ってたのか?」
 レオンの言葉に、リィンは首を振る。
「逃げるにも紋章がなければどうしようもありませんわ。おそらくデルコンダル王は、紋章と引き換えにわたくしの身を 要求するつもりだと思うのですけれど…」
 リィンは荷物の中から復活の玉を取り出す。
「念のためにこちらだけ預けて置きたかったのですわ。万が一ローラ様がデルコンダルに奪われてしまえば、 わたくしはここに留まらざるを得ませんもの。」
 レオンがそっと手を出し、復活の玉を受け取った。
「わかった。ローラ姫は俺が守るぜ。」
「あははー、なんだかレオン、アレフ様みたいだねー。」
 ルーンが笑うと、ほんのりと薔薇の香りがした。

「…少し思いますの。わたくし自身、ずっとロトの血脈にこだわっておりましたからなおさらですけれど・・・ ロトの血筋とは一体なんでしょう?」
「何って…そりゃアレフ様は、ロトの勇者の血だろ?」
「それはわかっておりますわ。それがどうして特別視されて…アレフ様は勇者と呼ばれたのか… 現在わたくし達は王族になって久しくとも、本家ローレシアではロトの末裔が勇者であると自負していた ことは疑いようもないことですわ…そうですわよね、レオン。」
「そうだぜ。当たり前のことだろう?勇者の末裔は勇者なんだから。」
「そうとは限りませんわ。わたくしがハーゴンを討とうとしているのは ロトの血とは関係がないことですもの…アレフ様は竜族と戦うだけの力を得ていた。…それは、ロトの血と なにか関係があるのかしら…もしそうだとすれば、 わたくし達がそろってロトの英雄たちにそっくりなのには、なにか意味があるのかしら?」
 リィンのその疑問に、レオンは黙り込んだ。
「聞いて見たらいいんじゃないかなぁ?」
 深刻な雰囲気になりそうだったとき、ルーンが明るい声でそう提案する。
「聞くって誰にだよ?」
「ローラ様に。ごめんなさい、ローラ様。良かったら教えてくださいませんか?」
 ルーンは二人が止めるより早く、復活の玉に話しかけていた。
「どうしましたか?ルーン…」
「うわわわわ!!」
 腕の中でゆらりと浮かび上がるローラ姫に、レオンは驚きとっさに座っていた椅子に復活の玉を置く。
「ローラ様。…ロトとは一体なんですか?どうしてアレフ様は、勇者として竜王と戦うことを人々に望まれたのですか?」
 それは、先ほどまでのルーンとは少し違って見えた。
”…僕は、勇者じゃないからね。”  そう言っていたルーンをレオンは今さらながら思い出す。
「…ロトとは…約束されたもの。精霊に愛された者…」
 紡ぎだす言葉は、まるで歌のようだった。
「…私は神ならぬ身…ただ、伝説を知っているだけ…その伝説から導き出した答えが、ローラと アレフの中にあったことを知っているだけ…それが真実かはわかりません。…それで良ければ貴方たちにお話しましょう…」
「はい、お願いします、ローラ様。」
 ルーンは二人に有無言わせず頷く。それが少し強引だと感じたのは、レオンだけではなかった。そっと後ろからリィンが 呼びかける。
「…ルーン?どうされましたの?先ほどから少しおかしくなくて?」
 自分に差し伸べた手をひっこめて荷物を取りに行ったり、二人に相談せずにローラを呼び出したりと日頃の ルーンらしからぬ行動だと、リィンは感じた。
「だいじょうぶだよー。なんでもないよ、僕、元気だよー。」
 ルーンはリィンを振り返り、にっこりと笑う。…なぜだかそれだけで落ち着いた。




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