「かつて…大魔王ゾーマにとらわれたルビス様を、まだロトの称号を得ていない、勇者が救ったとされております。 そして、ルビス様はその礼と…そしてゾーマを倒すために、ロトに祝福を 与えたとされております。それはご存知でしょうか?」 「はい、ローラ姫。その伝説はローレシアのみならず、ロト三国は決して忘れることはありません。」 レオンの言葉に、ローラは満足そうに頷く。 「…アレフはこう言っていました。ゾーマはルビスが負けてしまったような強い魔族だ。ロトが強かったとしても 、ゾーマを倒しに行けなんて後押しするなんて、死にに行かせるのと同じじゃないか…と。」 「…そんな…」 リィンが口元を押さえる。だが、ローラが優しく笑いかける。 「私はそうは思いませんわ。ルビス様は勝てると信じていらっしゃったからこそ、 子孫のアレフ様…そして貴方たちが生まれてきてくださったんですわ。」 そう頬をそめるローラは本当に可愛らしかった。 「ロトの勇者は伝承では空から落ちてきたとされております。…それは真実なのではないのかと、私は思います。 ロトの勇者は私たちのような常人ではなく、空の上に住まう者…それは、ルビス様のような 偉大な力を持っていたわけではないかもしれません。ですが、私たちとは違う力と希望を秘めた…異界の人… いいえ、精霊かもしれません。だからこそ、ルビスの加護と自らの力でゾーマが討てたのではないかと、 私がそう言いましたわ。」 「…だから…その異界の精霊の力と血を受け継いだ者が『勇者』と呼ばれるのか。この世界の誰も持っていない力を持ったからこそ 、その責任を果たさないといけないのか。」 レオンがそうつぶやくと、ローラは笑う。 「アレフ様も同じことをおっしゃいましたわ。『望んで得たわけじゃないのに、それを責任として果たすことを 望まれるなんて、やっかいだな、勇者ってのは』って。」 その言葉を言うローラが本当に嬉しそうだったので、最初に思い描いたアレフ像とはかけ離れた台詞にインパクトを 覚えることもできなかった。 ただ、そんなことを言うアレフをローラは本当に愛していたのだと、三人は感じた。 「…では、わたくしたちも、この先困難があるたびに、勇者として戦うことを望まれるのでしょうか?それが、 血を受け継いだものの・・・宿命?」 「いいえ。戦うことを選んだのは、ロトの血ではありません。アレフ様であり、貴方たちです。それから逃れることも できたのです。勇者なんて望まないと隠れていればよかったのです。けれど、アレフ様はそうしなかった。 人の希望を背に受け、まっすぐに生きること。…きっとそれが勇者の何よりの資質。私はそう思います。」 手を組んで、祈るように。その姿は、まさに女神だった。 その言葉の余韻が消えないうちに、ルーンがローラに問いかける。 「…では、どうして僕たちは…かつての英雄と同じ顔を持って生まれたか、ローラ様にはお分かりですか?」 「…これも、私には確かなことはわかりません。…おそらく、あなた方の血が… 代々のルビスの加護を受けた者の魂を写し取り姿を借りることで、より多くの加護を得ようとしたのではないでしょうか…」 「これは、決まっていたことなのですか?ローラ様?ムーンブルクが崩壊することが…ロトの血にはわかっていたことだったのですか?」 ルーンの言葉に、ローラは首を振る。 「…わかりません。けれど、そうではないのかもしれません。あまりにあいまいなことです…けれど、私は はっきりとしたことがわかっていたわけではないと思いますわ。 ただあなた方が未来に良くないことが起こることだけを感じていた…それだけなのではないかと思います。 …たとえ、ハーゴンが邪神を呼び出そうとせずとも…他の人間が何かのきっかけを得て、同じように世界を滅ぼさんと 動きはじめたのではないか…そう思います。」 「…では、ローラ様、セラは…ルーンの妹のセラフィナ姫はどうなのですの?セラフィナは、ローラ様に そっくりの顔をしております。」 リィンの言葉に、レオンは目を丸くしてリィンを見た。 「…ローラは一度だけ、ルビス様にお会いしたことがあるのです。薄い意識の中でしたが、ルビス様から お言葉をいただいたのですわ。…ですから、ローラにもルビスの加護があるのかもしれません。」 ローラは顔を翳らせる。 「…もしそうだとすれば、セラがいまだ幼いのは私のせいですわ。…ローラの魂の欠片がここにあるからこそ、 姿を借りるに十分な魂を写し取ることが出来なかったのでしょう。 …そしてこの事態に立ち向かうに十分な年齢に生まれることに間に合わなかったのでしょうね…」 「…けれど…俺は、それでよかったと思っています。」 レオンが小さく、静かな…それでいて力を込めた声で言った。 「…戦わなくてもいいんだ。戦う人が少ない方が俺はいいと思う。俺たちだけで十分だ。」 「…貴方はそういう人ですね、レオン。…とても優しい人。ありがとう、レオン。」 そう微笑まれて、レオンの顔が真っ赤になった。 「…貴方たちが戦うことを、誰も強要しません。幸せに生きてくれることが、私の望み。… 自らでお決めなさい。生まれる前の思惑などに流されず、自らの納得する道へと進みなさい…」 レオンは復活の玉を柔らかな布で包み、袋にしまいこんだ。 「…そうか…そうだな、やっぱり俺は…アレフ様の生まれ変わりじゃない、多分ただのロトの王族だったんだな。 結局血が流れてるからって勇者ってわけでもないし。」 そのつぶやきは、意外なほど前向きな声音だった。リィンも同じだった。 「…すっきりしましたわ。そうですわね。わたくしが戦うと決めたのですものね。きっと生まれる前から。」 「精霊の血か…不思議だね。もうずっと…誰も確かなことは覚えていないのに、血だけが確かにここにあるんだ。」 ルーンがそう言って、にっこりと笑う。 「二人とも、とってもすっきりした顔をしてる。僕嬉しいよ。」 「…ルーンこそ…なんかさっき、ちょっとおかしかったぞ、どうしたんだ?」 「二人がねー、なんだか悩んでるなーって思ってたんだよー。レオン、本当に優しいねー、大好きだよー。」 「だから気色悪いって言ってるんだろうが!!」 そうしてレオンに殴られるルーンは、本当にいつものルーンだった。 「では、そろそろ戻らないといけませんわね。」 「また窓から帰るのか?」 レオンの言葉に、リィンは侮蔑のまなざしを向ける。 「わたくしに壁を這い上がれとおっしゃるの?廊下を戻りますわ。まさか部屋に戻らせてくださらないわけは ないでしょうから。はっきりと部屋から出るなと言い渡されたわけでもありませんしね。」 「あははー、気をつけてねー。」 「ええ、ルーン。晩餐でお会いしましょう。」 にっこりと笑ってリィンが去っていった。レオンがほっと息をつく。 「…あいつが来ると、疲れるな。」 「そんなこと言ったら駄目だよ?レオン。リィンはとっても素敵な人でしょ?」 「あれを素敵って言うのか?」 レオンの言葉に、ルーンは笑うだけだった。 「じゃあ、僕も部屋に戻るね。旅の荷物も戻しておかないと駄目だね。」 「だろうな。せいぜい取られないようにどっか目に付きにくいところに隠しとけや。」 「うん、レオンもね。それに晩御飯の時にちゃんとリィンを守ってあげないとだめだよ?」 そう言うと、レオンが言葉を返す前に部屋を出て行った。 「…だから、なんで俺が守らなきゃいけねーんだよ…」 その言葉を、誰もいない虚空になげかけ、レオンは深くため息をついた。 前回「あと二回」と言いましたが、…えっとあと三回くらいあるかもです(笑)なんだかどんどん長くなりますね。 今回はローラ姫inデルコンダルでしたし(笑) ローラ姫はすっかり設定解説係になってしまいました。いや、そういうアイテムじゃないんです。またしばらく お休みしてもらうことになりますが… 次回はパーティー編。以前4でできなかったリベンジをここで果たせたらよいな… |
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