「それは、なんなんだよ!!」
 困惑が、怒りとなって出ているのがレオン自身にもわかった。悲しくて、悔しくて。八つ当たりだと 判っていても、どうしても怒鳴ってしまう。
「…ハーゴンのね、呪いだよ…。」
「…ハーゴンの?」
 聞き返したリィンの声に、ルーンはかすかに頷いた。
「ハーゴンの意識が、僕の体をのっとろうとしてるのが わかるんだ…ハーゴンの意識が…僕の体に入り込んできて… 何度も、ハーゴンの夢を…見たよ。最初はなんの、夢か、…わからなかったけど… だんだんね、その夢が、鮮明に長くなっていくのがわかって。たくさん、ハーゴンの意識が僕の中 を支配しようとしてるのが、わかって…それと一緒に、黒いのが広がっていったんだ…今も、ゆっくり、 僕の体を、奪い取ろうとしてる…頑張って、支配されないようにって思ってたけど…」
 ゆっくりと目を閉じるルーン。そこには恨みの感情はない。ただ、諦めの言葉。
「…僕が、皆とここまで来ることが出来て…それだけで幸せだったよ。…こんなに長い間、 二人と一緒にいられるなんて、思わなかったから。…たくさん頑張れて、よかった。」
 そのまま眠ってしまいそうで、レオンはまた怒鳴りつける。
「ふざけるな!!お前なぁ!!逃げるつもりか!?」
 ルーンはかすかに目を開ける。本当なら、口を利くのも辛いのだろう。うっすらと 汗がにじんでいる。
「…ごめんね…でも、二人なら、僕、きっとハーゴンが倒せるって信じてるよ…」
 レオンは歯噛みする。こんな言い方では駄目だと思った。けど、言葉が出てこない。そんな自分が情けなかった。
「ルーン…治療して差し上げますわ。必ず、呪いを解きますわ。だから…」
 リィンの言葉に、ルーンはかすかに首を振る。
「駄目だよ。…ずっと試してたんだけど…呪文も効かないし、解く方法もわからなかった…」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!!!ハーゴンを倒せばいいのか!?」
 そう言うレオンに、ルーンは笑う。
「…うん…でも、もうきっと間に合わないから。僕のことは気にしないで…。 …あせることなんてない。それで二人が傷ついたら、…僕はその方がずっと嫌だよ。」
 そしてかみ締めるように、ゆっくりと言った。心からの言葉を。
「沢山、レオンのこと傷つけて、ごめんね。怒らせちゃってごめんね。レオンの嫌われちゃったままなのが ちょっとだけ、悲しいけど…でもね、二人がハーゴンを倒してくれるってわかってるから。二人が 幸せになってくれるって…信じてるから、僕、全然苦しくないんだ。僕はもう死んでもいいんだ… やること、全部できたと、思うから…これ以上側にいたら、きっと、もっともっと、二人のこと、 傷つけたと、思うから…だから、僕、もう死んでもいいんだよ…」
 満足そうにそう言って、もう一度目を閉じる。…安らかに眠るように。


 何もかも悟りきったルーンの言葉に、レオンが逆上した。
 自分ひとりで全てわかったような顔をして。なにもかも自分の中で結論付けて。…結局何も判っていない。 思わずルーンの襟首を掴みあげる。なすがまま持ち上げられる体。…その体は驚くほど軽かった。
「ふざけんな!!!お前!!一体何のつもりだ!!!」
「レオン!!やめてくださいませ!!」
 リィンの声も耳に入らなかった。レオンは怒っていた。心底怒っていたのだ。
 レオンは顔を真っ赤にし、勢いよく叫んだ。
「ふざけんな!!よく聞けよ!俺はなぁ!お前が好きなんだよ!!!」


 信じられないことを聞いて、ルーンの目がまん丸になった。
「…レ、オ、ン…?」
 レオンは耳まで真っ赤になっている。それでも勢いに任せて言葉を続けた。
「だからな!!俺の好きな奴が死んでもいいなんていう奴は絶対許さねえ!!それが たとえ本人でもだ!!病人を殴る趣味はねえからな!見てろ、健康な体になったら、必ず殴ってやる!!!!」
 そう言ってそっとまた、ルーンの体をベットに横たえた。
 ルーンの目から、涙がこぼれた。
 何度も好きだと言ってきて。本当に大好きで。…そして一度も答えを返してくれなくて。…そして、喧嘩して、 嫌われたかと思ったから。嫌われてると思ったから。…本当に嬉しかった。長年の片思いが実った気分だった。
 ずっと見ていたリィンが、そっとルーンの手を握った。
「…わたくしも、ずっとルーンのこと好きですわ。…ですから、死んでいいなんて言わないで下さいませ… ルーンは、わたくし達にとって、大切な人ですもの。…どうか、殺さないで…お願い…」
「…僕…どうしよう、嬉しいよ…」
 ぽろぽろと零れ落ちる涙をぬぐうことなく、ただ二人を見上げて泣いていた。

「俺たちを信じてるっつーなら、ちゃんと信じろ。お前を殺させるようなことはしねえよ。必ず お前を治す。…それで最後までちゃんと付き合え。俺たちにずっと黙ってた落とし前をつけろ。」
「…僕、一緒にいても、いいの…かな…?」
「当たり前ですわ。…側にいてください、ルーン。」
 即答したリィンの言葉に、ルーンが頷いた。
「僕、待ってる…ここで二人が帰ってくるの、待ってるね…」
「ああ、必ずお前の呪いを解いてやるからな。待ってろ。」
 そっとルーンに布団をかぶせた。匂いを逃がすために、窓を開けてやる。
「…ルーン…苦しい?」
 リィンの言葉にルーンがかすかに首を振る。
「…ううん。…今はね、全然、…苦しくないよ。大丈夫。」
 ゆるゆると手を伸ばして、ルーンはリィンの頬にそっと手を添えた。
「昨日、傷つけて…ごめんね。」
 リィンはルーンの手を掴みながら、首を必死で振った。それで伝わったらしい、にっこりと笑って目を閉じた。
「行こうぜ、リィン。…時間がねぇ。」
「ええ。」
 そっと手を離し、立ち上がる。
「…待ってる、から…」
 ルーンはそれだけ言うと、そのまま眠ってしまった。よほど、疲れていたのだろう。それを見届けて、 二人は部屋をそっと出た。


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