「おや、お連れさんはどうだった?」
「ああ、それが…?」
「…レオン様?!」
 食堂に出て、女将に病状を説明しようとしたその時、突然声がかかる。
 振り向くと、この宿の雇われの男が、こちらを気まずそうに見ていた。
「おや、ヨーギル。このお客さんに何か用かい?」
「は、はい、女将さん。この方は…その…以前使えていたお館のご子息さんでさぁ…」
 しどろもどろになりながら、ヨーギルと呼ばれた男はなんとかそういうが、女将は怪しそうに ヨーギルを見る。
「なんだいなんだい、怪しいねぇ。あんたは嘘がつけない人間だからね。なんか隠してることが あるなら白状おし!」
 顔に見覚えはない。だが、素性に心当たりがあったレオンは、適当な話をでっちあげることにした。
「ああ、ヨーギルか。お前確か、俺が以前泥の中に落としたやつだな。あの時は泣いてたっけか。なんだなんだ、 まだ俺が苦手なのか?」
「いいいいえ、そのようなことは!!」
「なんだ、そういうことか。お客さん、いたずら坊主だったんだね。」
 苦しいが、女将は納得してくれたようだった。
「連れのことなんですけれど、やっぱり病気みたいでしたの。」
 リィンが話を戻す。呪いとは言えず
「その…持病で内臓を少し悪くしていると思いますの。それでずいぶん匂いがすると思いますのよ。けれど 伝染の危険はありませんわ。」
「そうかいそうかい。そりゃ可愛そうだね。まかせときな!面倒はあたしが見るよ!」
「いえ、女将さん、よかったら俺に面倒見せて下せぇ」
 ヨーギルが横から口を挟んだ。
「ヨーギル?あんたは病人の世話なんか見られないんだろう?」
「いんにゃ、その人、俺の知ってる人でさぁ。…病気の時は知ってる人に側にいてほしいもんだろうと思ってさ。」
「って言ってるけど、お客さん、どうする?」
 レオンは少し考えると頷いた。
「じゃあ、ヨーギル頼むよ。ご飯は作って持って行ってやるからね。」
 そう言うと、女将は去っていった。


 女将の後姿を見送り、レオンは小声でささやく。
「…お前、国の密偵か?」
「はい、ローレシア王からこちらの動向を探るために、三年前から勤務させていただいております、 ヨーギルと申します。」
「…以前の女と違って、お前はただの兵士だろう?向いてねーんじゃねーの?親父もムチャなことするな…」
「至らぬところもございますが、なんとか頑張らせていただいております。レオン様のお噂も お聞きしておりますよ。…もしや、倒れられたと言うのは、サマルトリアのルーンバルト様では…? 持病なのですか?」
「…ルーンはハーゴンに呪いを受けましたの。」
 リィンの言葉に、ヨーギルはハッとなる。リィンに一礼して話を続けた。
「伝染の危険はないのですね。」
「それは大丈夫だ。…けど、正直助かった。病気で押し通すにはずいぶんと怪しいからな。下手に 呪いだってばれたら追い出されちまう。出来るだけ女将には隠してくれ。」
「…わかりました。怪しいのですね。なんとか女将に面倒を見させないようにいたします。病状は、 思わしくないのですか…?」
「…ルーンの体は腐ってきております。急いで何か対策を立てなければと思うのですけれど …何か心当たりありませんこと?」
 リィンの言葉に、ヨーギルは息を呑んだ。
「…ゾンビに…?」
「違う、ルーンは生きてる。生きながら腐らされてるんだ。」
 レオンの言葉に怒気がはらんでいることを悟り、ヨーギルは頭を下げる。
「も、申し訳ありません!失言でした。…あの、もしかしたらさらに失言かもしれないのですが…」
「何でも結構です、どうかおっしゃってください。」
 リィンの言葉に、ヨーギルはおどおどと口にする。
「噂ですが、…遥か遠くの島に世界樹というものがあると聞きます。生命にあふれた樹で、 その葉を食べたものは死体でも生き返ると…」
 ヨーギルの言葉に、レオンはうなった。
「…それは、どこにある?」
「申し訳ありませんが、私にはわかりません。神父様でしたら、お分かりかと思います。」
「けれど、それで呪いが解けるかしら…」
 リィンの不安は、レオンの不安でもあった。だが、その自分を元気付けるようにレオンは言う。
「とりあえず、多少回復するんでもいい。あいつの力が、呪いに勝てば いいんだ。多分、あの図形が完成したら最後だ。行こうぜ、リィン」


 二人は教会へと走る。そこにいたのはレオンには見覚えのある人物だった。
「おい!!」
「…あなたは?」
 神父は、レオンに心当たりがないようだった。
「昨日俺はお前を怒鳴りつけた。…悪かった。覚えてないか?お前は俺に死相が出てるって言ってたな。」
 その言葉に、神父はレオンを見返した。
「貴方は、昨日の…昨日の死の気配が消えている…」
「いや、違う。…あれは俺の連れだった。今、宿屋で寝てるんだ。お前も知ってるか?…ハーゴンの呪いだ。」
「ハーゴンの…!?なるほど、あれほど強力な死の力は、ハーゴンが…貴方たちは一体…」
「訳あってハーゴン打倒の旅をしているものです。…それよりも、…ハーゴンの呪いを解く方法を ご存知ありませんか?」
 リィンの言葉に、神父の気が引き締まる。
「…どのような呪いなのですか?」
「…体がまだらに腐っておりました。生きながらにして…」
 リィンの言葉に、神父が息を呑む。
「ハーゴンの意識が入り込んできたと言っていた。…何かわかるか?」
 神父は熟考の末、ゆっくり口を開く。
「…おそらく、その方は生きながら殺されている…そう考えると自然です。」
「…生きながら?どういうことだ?」
「言葉どおりの意味です。おそらくハーゴンはお連れの方の精神を、支配しようとしているのでしょう。 ですが、人は自分の体と自分の心がそろって、初めて『生きている』状態になります。 …支配されると言うことは、もう一人の魂が肉体に不当に入るこむということ。 人の体は二つの魂に耐えることができません。やがてその部分は疲弊し、心が負け、 …その負の波動に腐らされているのでしょう。そして、その 『生きている部分』が『死んでいる部分』に負けた時…全てのっとられてしまう…」
 二人は、息を呑む。だが、今は落ち込んでいる場合ではない。
「…お前が知ってるっていう『世界樹の葉』とか言うもんがあれば、呪いは解けるか?!」
 レオンの言葉に、神父はしばし考える。
「…わかりません。世界樹の葉は生命の源であり、呪いを解く力は本来備えておりません。 …ですが、可能性はあります。悪くとも、時間稼ぎにはなるかもしれません。」

「その世界樹はどこにありますの?!」
 リィンは神父に詰め寄った。
「…私にも正確な場所はわかりません…ずっと東の海にの小さな島に、その世界樹はあると言われております。」 「…東か…」
 レオンは世界地図を広げる。
「…東の海の小さな島と言いますと…ザハンの近くかしら…?」
「炎の祠の近くになんか島があるぜ。」
「…暖かい場所。生命にあふれた土地。そう聞いております。…覚えておいてください。人に与えられた命は 唯一つ。貴方の大切な人が二つの魂に耐え切れなかったように、人は二つの生命を分け与えられる ことは出来ません。人が一度に持てる世界樹の葉は一枚きりです。」
「わかった。世話になったな。」
 レオンが世界地図をしまいこみ、リィンと共に立ち上がる。出て行こうとする二人の背中に、神父が声をかけた。
「もし、お連れ様が回復した暁には、必ずここに来てください!貴方たちのお役に立てると思います!!」
 レオンは振り向かず、ただ聞こえた証に手をあげて、それに答えた。


 ルーン呪い発動編です。ベラヌールで呪われたのではなく、以前から呪われていたのが限界に 達したと言う設定にしてみましたです、はい。どこで呪われたかは…皆様おそらくお察しの通りだと 思います。次回あたりにちゃんと書きますが…
 書いてて思いましたが、もののけ姫っぽいですね、呪われ方。ビジュアルイメージはあんな感じです。
 ちなみにレオンが告白(笑)してますが、恋愛感情ではないですよ、念のため。

 次回はルーンの夢編。誰の夢かはっきりさせたので、ようやく相手の名前が出せます。ああ嬉しい。


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