「…基石が…光ってる…」
 ルーンがぼんやりとつぶやき、そして立ち上がって叫んだ。
「ねぇ、レオン、リィン…もしかしたら、もしかしたらフェオさん…助けられるかもしれない!!」
 泣くリィンを見守っていたルーンが、ぼんやりとそう言った。
「…なんだって?!」
「どういうことですの?」
「僕、ずっとハーゴンのこと、『見て』たんだ…邪教の研究も。…だからきっと、僕には今禁忌の 呪文とされてるものが使える…一瞬にして何かを殺す呪文も、命を武器にして全てを消し去る術も… 死人を蘇らせる魔法も…」
 二人は息を呑んだ。
「もちろん、誰でも生き返らせるっていうのは無理なんだ。例えば肉体がもうない人は無理だし、あんまり昔に死んだ人は もう魂がこの世界にないから無理なんだ。それに『生き返ろう』って力がない人も無理なんだよ。」
「力?」
 レオンの言葉に、ルーンは悲しい顔をした。
「うん、あのね。死ぬってとっても疲れるんだ。魂がとっても疲れていて、身体の中にもう一度入ることが出来ないほど 疲れちゃって、生き返る力が持てないんだ、たいていの人は。…けど、フェオさんは…ハーゴンの中にあっても、 まだ生きてる。頑張って…リィンを助けてくれた。だから、もしかしたら助けられるかもしれない。呪いが 完成してなければ…きっと、大丈夫。」
「…けど、それは…やっちゃいけねーことなんだろう?」
 おそるおそる聞いてきたレオンに、ルーンは頷いた。
「…そうかもしれない。僕はルビス様を裏切りたくないし。…けど、 だからこそ、僕は助けられるなら…邪教によって殺された人を邪教の力だけど、それで助けられるなら 僕は助けたいと思う…それに僕は同じ呪文を使ってもハーゴンと同じにはならないよ。だから大丈夫。… レオンやリィンが許してくれるなら…だけど…」
 上目遣いに見つめるルーンにレオンはため息をついた。
「…勝手にしろ。お前が邪教に落ちるところなんて、想像もつかねーからな。」
「わぁい、レオン、大好き!!」
「お前、んな恥ずかしいことを簡単に言うなよ!!」
 レオンの言葉がおかしくて、ルーンもリィンも笑う。
「レオンはー、もう言ってくれないのー?」
「何のことだ?俺はしらねぇよ!!」
 レオンは顔を赤くして怒鳴った。
「…レオンって本当に照れ屋ですのね。」
 リィンはそう笑った後、真面目な顔をして、ルーンに向き直った。
「…ルーン。わたくしにも、それを教えていただけますか?」

 首を振ろうとしたルーンをリィンが細い人差し指で制する。
「リィン…」
「駄目…なんておっしゃいませんわよね?それともルーン?わたくしがハーゴンと同じ場所に堕ちると本気で 心配してらっしゃる…なんてことはないですわよね?」
「でも…リィン…。本当はやっちゃいけないことなんだよ?命を人が操っちゃいけないんだ。」
 その言葉に、リィンはスカートを強く握り締めた。
「…判っております。それは禁忌であると。広めてはいけないことだと。…けれどわたくしは…もう、こんな 想いは嫌ですわ、ルーン。貴方を失ってしまえば、兄も生き返らせることができませんもの。そして貴方のことも…」
「この戦いが終わったら、忘れられる?」
 同意を含んだルーンの言葉に、リィンは顔を明るくして、自信満々に答えた。
「誰に聞いていらっしゃるの?ルーン?」
「…じゃあ、生き返りの術…ザオリクだけだよ?それだって本当に上手くいくかわからないんだからね?僕もそうだけど、 ハーゴンだって試したことないんだから。」
「ええ。」

 真夜中の部屋で向かい合って魔術の講義を始めた二人の横で、レオンは立ち上がり、大きく伸びをした。
「精霊の子供が揃って邪教の勉強なんざ、アレフ様もさぞ嘆かれるんだろうな?」
「レオン!!」
「…ごめんね、レオン。…怒った?」
 リィンの叱責とルーンのしょげた声に背を向け、レオンは大きなあくびをした。
「んなわけで俺は関係ねーから寝かせてもらうぜ。」
「うん…おやすみなさい…」
 まるで怒られた犬のようにしゅんとしたルーンの声に、レオンはため息をついた。
「…別にかまわねーと思うがよ。俺には呪術だのなんだのはわかんねー話しだしな。けどな、お前らわかってるだろうけどな。 その前に…死ぬなよ?俺は一回だってお前らが死ぬところなんて見たかねーんだからな。」
 そのままふりむかず、レオンは部屋を出た。
「レオン!待って!…リィン、ちょっと待っててくれる?大丈夫?眠くない?明日にした方がいい?」
「いいえ、平気よ。ここで待っているわ。それよりレオンに用があるのでしょう?」
「うん、ちょっと待っててね!!」
 扉を出て、ぱたぱたと駆けて行くルーンの後姿に、リィンはため息をついた。
「嫌ですわね、ライバルはあまりにも強力すぎますわ。」


「レオーン!」
 幸い、レオンが部屋に入る直前で、レオンを捕まえることができた。
「なんだ?」
 レオンの頬が少し赤いのは、先ほどの台詞に照れたからだろうか。ルーンは少しだけ笑った。
「んだよ。俺はねみーんだ。とっとと言えよ。」
「…うん、あの…ごめんね?」
「それはさっき聞いたぜ。」
 もじもじと言ったルーンの言葉をすっぱりと切って捨てたレオンに、ルーンが首を振った。
「ううん、違うの。あの…えっと…さっき…その…リィンを…」
「あー」
 その言葉を聞いて、レオンは自分の頭をぐしゃぐしゃとかきむしった。言いにくそうにしているのは、 ルーンにとっても二人の婚約のことはずっと触れてはいけないことだったためだろう。
「あのなぁ、ルーン」
「なぁに?」
 顔を上げたルーンの額に、でこピンをする。
「痛いよー。」
「もうちょっと良く見ろよ。」
「何をー?」
 本当にわかってないルーンに、レオンはため息一つ。
「さぁな。自分で考えろ。俺の専門分野じゃないことは確かなんだからな。」
 レオンはそう言うと、扉を開けながら手を振り検討を祈りながら扉を閉めた。



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