二人が起きてきたのは昼過ぎだった。それでもまだ寝不足なのだろう、痛む頭を抱えながら昼食をとるリィンと 寝ぼけながらパンを口にするルーンが少しおかしかった。
「それでー…これからどうするの―――?」
「ああ、それなんだけどな。世話になったやつが終わったら尋ねてきてくれって。」
 レオンの言葉に、ルーンが首をかしげた。
「世話になった人ー?ヨーギルさんならさっき挨拶したよー。窓拭きしてたからあんまり挨拶できなかったけどー。 レオンによろしくって。」
「ああ、そういえば奴もいたな。」
「とっても一生懸命世話してくれたんだよー。身体を拭いてくれてね。女将さんを部屋に入れないようにしてくれたよー。」
 にこにこと笑うルーンの横で、リィンがレオンに尋ねた。
「あの世界樹の葉のことを教えてくださった神父さんのことですわね?」
「ああ、ルーンが回復したら来いっつってただろ。」
 レオンの言葉に、ルーンの顔が輝く。
「そうなんだー。僕、お世話になったんだー。お礼、言わないとねー。じゃあ、食べ終わったら行かないとねー」
「ついでに紋章のことを聞いておきましょう。」
 リィンが口をぬぐいながら言った言葉に、二人は頷いた。


「ハーゴンの呪いから解放されたのですね。…おめでとうございます。」
 ルーンの顔を見て、神父は心から嬉しそうに言った。
「世界樹の葉のことを教えてくださったと聞きました。本当にありがとうございました。おかげで僕、助かりました。」
 ルーンの言葉に、神父はにこやかに首を振る。
「いいえ、私は何もしておりません。私が持っていた知識をお二人にお話しただけです。…それを活かされたのはまぎれもなく お二人でしたから。…それよりも。お三方のハーゴンを打ち倒そうと言う意思は、お変わりありませんか?」
「ああ、変わらないぜ。」
 きっぱりと言ったレオンの言葉に、二人は頷いた。それを見て神父は本棚を探り、隠してあった小箱を取り出した。
「では、こちらに来てください。…お見せしたいものがあります。」


 その扉は一見ただの壁のようにカモフラージュされていた。
「…隠し扉…?何か封印でもされているのか?」
 レオンの言葉に、神父が首を振る。
「いいえ。この扉など、封印の役になど立ちません。…ただ、うかつに人が入らないようにしているだけです。」
「しかし…それだけにしては、随分厳重ですのね?」
「うかつに入れば死を招きますし…かつてここを解放することで、この町が犯罪の温床になったこともありましたから。」
 意味不明な神父の言葉に、三人は首をかしげた。神父が鍵を差込み、扉を開ける。その向こう側は長い廊下だった。
「さ、どうぞ。」
 神父はそう言うと、先頭を歩き始めた。三人は顔を見合すと、そのあとに続いた。

 そこは人が一人がやっと通れるくらいの狭い通路。響き渡る四人の足音が少し不快に響く。
「…あの…犯罪の温床になるほどの物が…ここにはあると言うことですの?」
「いいえ、違います。…国を追われた者が一か八か逃げる場所…決して兵士が追ってこられない場所… 逆に言えば、ここにほとぼりが冷めるまで留まることができれば、また戻って犯罪を行うことができる…そう 思ったものは多く、結果この町で盗みを働き、この通路を使う者がこの町に溢れた時代があったのです。もう 何年も前ですが…」
 ここまで来ると、ようやくこの通路の意味するところがわかってきた。変わらないはずの温度。だが、どこか 肌寒い気がするのは気のせいだろうか。
 そして、少しだけ広い場所に出て、神父の足が止まった。三人はそれぞれ前を見るために横に並ぶ。…そこには 何の変哲もない旅の扉が眠っていた。
「…ロンダルキアへの洞窟へ繋がる旅の扉です。ハーゴンに打ち勝てる力をお持ちのお三方に、この道を託します。」
 レオンはつばを飲む。妙に喉が渇いていた。


「…神父様。でも、僕たちはまだ旅立てません。…紋章があと二つ足りないんです。僕たちは… 紋章を集めて精霊の加護を得ないとハーゴンには…勝てないって…」
 ルーンがそう言った。…その笑顔がとても寂しそうで、二人はハッと息を呑む。…あの夢を見ながら、ルーンは どんな気持ちで紋章を集めていたのだろうか。
「…貴方たちはただ、漫然と加護に救いを求めているわけでは在りません。精霊とて、なにもせず怠けているものに加護は 与えません。…そして私も同じです。もしお二人が呪いを解くことを諦めていたなら…私はこの道を教えることは なかったでしょう。努力で何かを勝ち取ることは、恥じることではありません。誇りに思いなさい。思い出しなさい。 あなた方は精霊の加護だけでここにきたのですか?」
 神父のその言葉に、ルーンは笑顔で首を振った。
「ありがとうございます、神父様。僕達、頑張ります。」
「それはそうと…紋章ですか…話には聞いております…」
 リィンは紋章を取り出し、神父に見せた。
「あとは水の紋章、そして命の紋章だけですの。命の紋章はロンダルキアにあると言われているのですが…水の紋章は…」
「この町にあるんじゃねーかと思ってたんだけどな。しらねーか?」
 レオンの言葉に神父は首を振る。
「いえ…このあたりにはそのような話は聞きません。皆様が世界中探されたとすると…どこかに隠匿されているのでしょうか? 探し損ねたところはありませんか?」
 神父の言葉に、ルーンが地図を広げる。
「うーん…探してないところ…ない…よね?」
「またこの広い世界を巡って探せってか?」
「…笛があると言っても…難しいですわね…」
 うなっている三人に、神父が優しく声をかける。
「…何か、心惹かれるところとか…言ってみたいところかはありませんか?」
「なんでだ?観光に行くわけじゃねーんだぞ?」
 レオンの言葉に、神父が祈りの言葉のように清冽な声を出す。
「紋章は物ではなく心のしるし。おのれの強さの中にそのしるしが刻まれる…と聞きます。紋章の本質は その布に刻まれた紋章ではなく、貴方達の心の中にあるはず。…ならばその紋章が引き合うということはないかと 思いまして。」
「そういえば、そのようなことを聞きましたわね。…心の中…」
「うーん、僕、今はとりあえず行ってみたいところってないかなー?あ、世界樹は一度見てみたい気がするよー。」
「お前、それ、本気で観光だろ。」
「えへへー。」
 笑うルーンの横で、レオンも地図を見つめ、ぼんやりと言う。
「…俺も…特に…ない…か。うん。」
 …どうしても一点を見つめてしまうが、それは本人すらも気がついていなかった。
「…ねぇ、レオン、ルーン。…わたくし…もう一度ムーンペタの様子が見てみたいですわ。…今 あの国がどうなっているか…わたくし…」
「あー、そういやあっちの方では笛吹いてねーよな。」
「そうだねー。せっかくだから言ってみようよー。」
 あっさりとした二人の合意が少し嬉しくて、リィンは笑う。
「ありがとうございますわ。」
「では…この鍵はお渡ししておきます。この廊下はいつでもお使いください。」
 そう言って神父はレオンに鍵を渡す。レオンはしっかりと受け取って頷いた。


   ちと強引な気もいたしますが…そのあたりはつっこまないで下さい(笑)前から如何にして最後の展開に 持っていくかを悩んでいたのですが、一番自然な(これでも一番自然なんです…)方法で持っていくことにいたしました。

 紋章の話は…ものすごく皮肉だな…と前々から思っておりましたので、ルーンに言わせてみました。 守りを使う瞬間を今から少し楽しみにしております。
 あとザオリク云々理論は「どっかできいたことあるなー」って人もいると思いますが、それもそっとして置いてください… すっかりこのサイトの共通理論となってしまいました(笑)さて、いつ活躍するか、果たして活躍するのかどうか… どうぞお楽しみに。


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