二人の『答え』をレオンは聞いていた。…そのどちらも、二人らしいと思った。そして その答えと正義は『レオン』には決して出せない答えだった。何故なら、レオンにはルーンのように あちらの正義に触れたこともなく、リィンのように誰かを殺されたわけでもなかった。
 そして、目の前にいる人物が『兄』ならレオンには何も言えない。言える言葉がない。
(…なんて言えばいいんだ…一体俺はどうしたらいんだ…どういえば、こいつらにわかってもらえるんだ…)
 どうすればいいか、何が正しいのか、レオンにはわからなかった。
 ずっと勇者になりたかった。人を助ける勇者となりたかった。
 …けれど、もしここでこの人たちを切り捨てて世界を救っても、それは勇者と言えるのだろうか?
 ”僕は勇者じゃないからね”
 ルーンの言葉が浮かんだ。…そうだ、ルーンの答えはきっと、『勇者』ではないのだろう。
 だったら、なんて言えばいい?どうすればいい?

(…フェオなら…)
 あの優しい親友を思い出す。王にはなれず、全てを助けたいと願っていたフェオなら…
(きっとここに腰をすえて、一人一人の話を聞くんだろうな。…そして何年かかかってもそのしこりを取ろうって 頑張るんだろうな。)
 その姿が目に浮かぶようだった。…けれど、それを自分に置き換えることはできない。自分ではこの人たちのしこりを 取ることはできないし…なによりも立ち上がって、ハーゴンを討たなければならないと強く思っている。

(…親父なら…)
 国で信頼され、大国を支えている父親を思い浮かべる。自らのゆるぎない意思をしっかりと持ち、目標に 向かいためらいなく進む父ならば…
(きっと、ためらいなくこいつらを切り捨てるんだ。自分の正義を信じて、そして自分の正義を信じてくれる 人だけを救おうとする。あの親父なら、きっとそうだ)
 その生き方もあるのだろうと、今ならそう思える。だが、レオンはそれは嫌だった。ずっとそうなりたくないと願っていたし、 それは勇者じゃない。非道で孤高な王だ。それはレオンには出来ないことだった。

(アレフ様なら…)
 竜王から世界を救い、人々に光をもたらした、自分と同じ顔をした偉大な勇者であり、王。…もし アレフなら、どうしただろうと考える。
 しかしその答えはわからなかった。その答えこそが、今のレオンにとって重要なことなのに。どうしても どうしても判らなかった。
(アレフ様なら…どうしただろう。アレフ様なら…)
 いっそローラ姫に聞いてみたいとさえ思った。復活の玉を持っているリィンをちらりと見る。

 …するとリィンは静かな目で、レオンを見つめていた。
 はっとして、ルーンを見る。ルーンも目の前の人を剣で牽制はしているものの、何も言わず優しい目で レオンを見ていた。…待っていた。

 レオンの答えを。レオン自身の言葉を。


 我に返った。
「…何やってるんだよ…」
 小声でそう自嘲する。
 誰かの答えでは駄目なのだ。自分自身の答えでなければ。自分自身の正義でなければなんの意味もない。
 だから二人は何も言わず、ただ待っていてくれた。自分の答えを。…自分を信じて。

(俺は、何がしたい?…俺に、何が出来る?俺が…俺ができること…俺が、したいこと…)
「…なら取り戻せばいい。」
 突然出た、レオンの言葉に人がざわつく。
「…どういう意味だ?」
「失ったものは、また取り戻せばいい。」
「そんな簡単に言うな!!俺たちの心の傷は…!!」
 皆まで言わせなかった。
「確かにお前らはかわいそうだと思うぜ?でもな?この世界には家族を魔物や強盗に殺されたなんてやつ、山ほどいるんだ!! お前たちだけじゃない!!けどな、皆それでも頑張ってる!!そこにいるリィンだって家族を魔物に殺されてるんだ!!」
 そう叫んで、皆を黙らせる。そして、ゆっくりと優しく皆に告げる。
「…だから、それを取り戻させるってのは無理だ。けどな、お前たちはさっき『人としての当たり前の人生』を奪われたって 言った。それなら今からでも取り戻せる。」
 女が反射的に叫んだ。
「簡単に言わないで!!ここにいる人たちは、皆偏見を受けて迫害された者たちなのよ!!髪の色とか、肌の色とか、双子とか 家族とか!!そんなことで皆平気で人を傷つけるの!人生を奪うのよ!!どこに行ったって一緒よ!!」
「ローレシアに来い。俺の国だ。…この俺が…レオンクルス・アレフ・ロト・ローレシアの名にかけて、お前たちを 『人』だと認めない人間から守ろう。迫害されたら来ればいい。俺が罰する。そこでもう一度やり直せばいい。 俺は、お前たちを受け入れる。」


 それは意外な言葉だったのだろう。すこしどもりながらも、男は叫ぶ。
「そんなもの、偉い人間はなぁ、次の日になったら、都合が悪くなったらすぐ忘れちまうんだ!!」
 レオンはロトの剣を抜き、かざす。
「…約束するさ、それが俺の正義だ。ロトとルビスの名に誓う。お前たちを決して白い目で見せることはない。もし 云われなき迫害を受けるなら、お前たちの正義にかけて正しいと思うなら、いつだって俺の名を出せばいい。」
 その堂々とした姿に、皆が一瞬見とれた。そして、心が動いたのだろうか。誰かが弱弱しく口にする。
「…本当に、約束してくれるか?俺たちを裏切るんじゃないのか?」
「…今の俺には心のまま約束することしかできない。…それに、俺はそれ以上のことはできない。『 人』としての当たり前の人生しか守ってやれない。」

「どういう意味だ?」
 誰かの問いに、レオンは答えた。
「お前たちの謂れのない迫害からは守ってやれる。けどそれ以上の幸せを掴むなら…それは自分の力でやれ。 王家の威光を借りて、楽に生きることは約束してやれない。…何故なら『人』なら皆、結局は自分の力で 幸せを掴むんだ。人ってのはそういうもんだと俺は思う。たとえ王族だろうと、精霊の加護があろうと、自分の力で 動いて、幸せを掴もうとしない奴には絶対何も得られないんだ。…だからお前らが邪神の加護にすがって祈るだけで幸せに なりたいと考えているなら、俺は邪神と同じような加護は与えない、絶対に。」
 皆がざわめいた。賛否両論と言ったところだろう。レオンがそれに後押しするように、言う。
「…けどな、お前たちが望んでいたことは、そういうことだろう?自分の力で、自分だけの力で認められたいんだろう? 少なくとも、こんな海底の地下で溶岩に当たって暮らすより、俺は人間らしい暮らしを与えてやれる。日の光に当たる、 人間の暮らしを。…今決めなくてもいい。俺を信じてくれなくてもいい。けど、もしそうしたいなら… 自分の力で幸せを掴みたいと思うなら…いや、日に当たって生きていきたいと思うなら、 そこをどいてくれ。もしどいてくれるなら…俺もお前たちを信じる。後ろから攻撃したりしないって…俺は信じる。」
 そう言って、レオンは剣を納めた。そして後ろを見た。

(これでいいか?)
 目でそう問いかけた。
(うん、レオン、かっこいいよ)
 ルーンがそう目で答えてくれたような気がした。
(まぁ、及第点ですわね。レオンにしては上等ではなくて?)
 リィンがそう笑っている気がした。
 …ならきっと、これが自分の正義だ。


 三人は、邪神の像に向かって歩いた。
 ゆっくりと、戸惑いながら人は…ゆっくりと動く。
「…おい、おい!!お前ら!!」
 神官の声に、皆は答えなかった。おずおずと道を開き、場所を譲った。
「さて、神官さんよ。お前はどうする?」
「道を譲るのでしたら、わたくしたちも手荒な真似はいたしませんわよ?」
「うん、逃げてくれてもいいよ。けど、この人たちに手荒な真似はさせないからね。」
 そう言いながらも、逃げないことは判っていた。これは魔物の気配だとわかっていたからだ。
「炎の聖堂を汚す不届き者め!!!!悪霊の神々の生贄にしてやろう!!」

 そういうと神官に化けていた魔物が姿を現した。人々のざわめきが聞こえる。
 …だが、既に三人の前では敵ではなかった。
 レオンとルーンが抜き去った剣で一薙ぎにし、リィンの魔法がそれに止めを刺した。

「…お、おのれ…ハーゴン様…」
 もはや三人は、それに注意を払わなかった。まがまがしい像をルーンが取り上げ、慎重にしまいこむ。
「…お前たち、俺はしばらくハーゴン討伐に出て留守だ。もちろん今からローレシアに送ってやってもいい。 けど、俺の居ない国でどこまで俺の名前が通用するかは保証できねーけど、どうする?」
 その言葉に、ざわざわと相談が持ち上がった。だが、まとめ役なのだろうか、傷のある男がレオンに告げる。
「…お前の国よりは、ここの方が安全だ。ここまでは魔物も来ない。・・・もし本当に、この世界にルビスの加護が あるなら、お前らが勝ったこともわかるだろうさ。そしたら俺たちはそっちに行くよ。」
「ああ、わかった。ここから南、ザハンの隣の旅の扉を通ってくればローレシアだ。」

 その言葉に人々は頷いた。そして最後に、誰かがこう言った。


「…信じてる。貴方たちを信じた私たちが正しいことを。」


 

 2P目、見難いですね…うーむ、文字が詰まってしまいました。油断すると、長文が多くなってしまいます。 ちなみにタイトルは「ありか」と読んでくだされ。
 さておき、主役はやっぱりレオンですね。面目躍如、と言ったところでしょうか。最近影が薄くなってたような 気がしますので…レオンは私キャラに珍しい「ポジティブキャラ」なので書いているとすっきりします。

 さて、次回は…以前中編で書いた部分になりますが、できればあの部分はパラレルとして、すっぱり忘れてくださいませ。 全然違いますし、あの幽霊も出てきませんので…(ここの部分を書く日を恐れていたよ…)どうぞ よろしくお願いします。

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