洞窟の中は、瘴気と湿気で満ち満ちていた。
「うぉわ!!…滑りやすいな、気をつけろ。」
 床の水分に足をとられたレオンが、二人に注意を促す。
「…危ないですわね。どんな罠があるかもわかりませんし…」
「なぁ、ルーン、お前、中のことはわかるのか?」
 ルーンは頭を振る。
「ううん、さっぱり判らないよー。僕が見たハーゴンの記憶は途切れ途切れだから。 全部正確に覚えてるわけじゃないし…当てにならないと思う。ごめんね。」
「いいんですわよ、ルーン。そもそもわたくし達はずっとそうしてきたんですもの。」
「まぁな。駄目もとで聞いたんだ。気にすんなよ。とりあえず…命の紋章だったか?さがさねーとな。」
「うん、ちょっと待ってね。」
 そう言って、ルーンが立ち止まり、袋に手をかけたときだった。かちりという音と共に、身体が下へ引きずられるのを感じた。


「リィン、レオン、大丈夫?怪我はない?」
「・・・大丈夫ですわ。…驚きましたけれど。ルーンは?」
「うん、怪我がないよー。」
 三人は埃と泥を払いながら立ち上がる。
「俺もなんともねーけど…あそこから上がるのは無理だな。」
 レオンが上を見上げていった。落ちてきた穴ははるか遠く、這い上がることは望めそうにない。
「どこかに階段があると思いますけれど…探すしかありませんわね。」
「うん、そうだね…って、あれー」
 ルーンは右手をわきわきさせ、それから袋の中をごそごそと探った。
「山彦の笛、ないよー…?」
 その言葉で、二人は総毛だった。
「ないって、ちょっと待てルーン!!」
「先ほどので落としましたの?!」
「そうみたいー。」
 ルーンの笑顔で和んでいるまもなく、二人は周りを見渡して、山彦の笛を探す。幸い、それはすぐ近くに落ちていた。 レオンがそれを拾い上げ、服の裾で泥をぬぐう。
「壊れてませんこと?」
「ひびは入ってないみたいだぜ?とりあえず吹いてみる。」
 口に当てる部分を念入りに拭き、レオンは笛に口をつける。
 ぱぷぺぽー、ぱぷぺぽー…ぱーぷーぺーぽーーー
 その響き具合に、リィンとレオンが顔を見合わせる。
「…山彦だー。」
 ルーンのコメントに、二人は叫んだ。
「それ、やっぱり壊れているのではありませんこと?!!」
「なんだよ、たまたま入った落とし穴でたまたま山彦の笛吹いたらそこに紋章がって、あきらかに嘘だろ!? なんのための落とし穴だよ?!」
「あははー、ほら、リィン、レオン。事実は小説より奇なりっていうしさー。」
「そういう問題じゃねー!!」
 ルーンの言葉に激しく抗議するレオンの声が、フロアに響き渡った。
「レオン、敵がやってきますわよ。とっとと探しましょう。」
 リィンの声に周りを見回すと、時既に遅く、雑魚ゾンビがうぞうぞと群れを成していた。


 広大なフロアの一番隅。ちょこんと置かれていた宝箱をゆっくりと開ける。そこには最後の紋章…『命の紋章』 が眠っていた。
「…最後の一つ…これで集まりましたわね…」
 三人が、同時に手を伸ばし、ゆっくりと触れた。

『何かが入り込んでくる』五回目の感触。ただそれは、強引に押し入ろうとするのではなく、ゆっくりと優しく染み渡る 感覚。そしてそれは、三人に、『生きている奇跡』を教える。全てがいま、当たり前のようにそこにあることが、 なによりも大切なことだと。ゆっくりと伝わってくる。
 そして、判った。5つの紋章が教える。ルビスが呼んでいると。大きなうねりの中央に、神が光臨できる 聖地があると、紋章は呼びかける。
 ”ヨンデイル ”
「…いかないとな。」
「うん、ここを抜けよう。二人ともつかまって。」
「判りましたわ。向かいましょう。」
 三人は呪文で一気に洞窟を抜け、街に戻り、そのまま船を漕ぎ出した。そして…迷うことはなかった。どんな広い海でも、 三人は一直線にそこに向かう。それがたとえ深い森の中でも、土の中でも…三人は決して迷うことはなかっただろう。 心に埋められた5つのコンパスが、たった一つの場所を指し示しているのだから。
 そこまでたどり着くのに3日。その時間さえもどかしかった。もっと早く、もっと早く。一刻も早く そこにたどり着けなければならないのだ。…そこには、神が待っているのだ。。



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