「…どうして、こんなところに…」
 モンスターに襲われ、船とともに沈んだと歴史書には記されていたロトの鎧だった。
「復活の玉と同じく、モンスターがここに運んでいたのでしょうね。」
 リィンが鎧を見つめながら、レオンに聞いた。
「…もしかしたら、レオン…胸がざわめいてたのって、これのことですの?」
 ルーンの言葉にレオンは一瞬考え…首を振った。
「いや、まだざわめいてる。だから違うと思う。…でも、すげえな。ハーゴンと戦う直前に見つかるなんてな。」
「…違うよ、きっと。」
 妙に確信をもった言葉だった。
「どういうことですの?」
「きっと、ロトの鎧が戦いたかったんだよ。守りたかったんじゃないかな。」
 青い鎧を感慨深く見て、それからレオンに微笑む。
「レオン、装備しなよー。」
「いいのか?」
 思わずそう聞き返す。…かつて、大喜びでロトの盾や兜を装備した時とは少し違う気持ちだった。
「レオンにきっと良く似合うよ。」
「お前だって、ロトの勇者に似てるんだから、似合うんじゃねーの?」
 その言葉に、ルーンはぽかんと目を開いた。
「そうですわね。きっと似合うと思いましてよ。わたくし、見てみたいですわ。」
 リィンのその言葉に、今度は顔が真っ赤になる。
「だ、だめだよ!僕重い鎧、苦手だもん、レオンの方がいいよ、うん。」
 耳まで顔を赤くして、ぶんぶんと手を振りあせっているルーンはとても意外で、可愛くて。
「ふふふふふふ。」
「あはははははは」
 二人は声をそろえて笑った。
「ひ、ひどいよー、笑うなんてー。」
「わぁったわぁった。んじゃ、俺装備するな。」
「ひどいよー!」
「別に馬鹿にするわけではありませんのよ?ルーン。機嫌直してくださいませ。」
「リィンもひどいよー。」
 めずらしくおろおろするルーンが、またおかしくて。不気味な洞窟で二人で笑いあった。



 洞窟は、まだ続く。
 口を開けて奈落へと導く、落とし穴。

 レオンが空を見上げた。
「…何度目だ?」
「…ごめんなさい。」
 ルーンがしゅんとなって頭を下げる。
「ルーンが悪いわけではありませんわ。…この大量の落とし穴が悪いんですのよ!!許せませんわ!!」
 リィンの叫びが広い部屋に響き渡る。…上を見上げると、その天井はまるで格子状のように穴が開いていた。
「この洞窟はハーゴンが作ったわけじゃないよー。…もしかしたら穴の何個かはハーゴンのせいかもしれないけど…」
「いーや、全部ハーゴンが悪い!あいつさえ存在しなきゃ俺たちもこんなとこ来なくてよかったんだよ!!」
 レオンがそう腕を振り上げた衝撃で、袋の中に入っていた火打ち石が転がり出た。ころころと部屋の端まで 転がっていく。
「やべ!!」
 反射的に駆け出して…そしてレオンの姿が消えた。
「…レオン!どうしましたの!?」
 良く見ると、穴が空いていた。落とし穴だ。
「こんなところに落とし穴がありましたのね。」
「…びっくりしたねー。他にもあったら大変だから気をつけないとね。」
 ルーンはリィンににっこりと笑った後、穴にそっと近づいて叫ぶ。
「レオンー?大丈夫ー?」
「……」
 ルーンの言葉にレオンの返事はなかった。
「レオン!?レオン!」
 リィンがあせって呼びかけるが、返事がない。リィンとルーンは頷きあい、穴に飛び込んだ。

「レオン!!レオン!!」
 着地地点で気を失っているのかと思ったが、レオンの姿はなかった。二人はそのまま通路の奥に向かう。…すると。
「レオン!どうして返事してくださいませんの?」
 ちょうど袋小路になった部分。そこにレオンが立っていた。
「もう、心配いたしましたのよ?」
 リィンの言葉に、レオンは呆然と
「悪い」
 と言った。…だが、目線はこちらを向けない、ただ袋小路の奥を見つめている。
「…何を見てるの?」
 ルーンが視線の先を覗き込む。…そこには、金色に輝く、美しい剣があった。
 稲妻を模した刃には、稲妻の泳ぐ様子が幾重にも彫刻されていた。魔力を感じるその剣は、まさに戦う芸術だと言えた。
「…美しいですわね…」
「なんか…なんて言えばいいかわからねぇけど…これ、俺の剣だ。」
 レオンがそう言う。
「どういう意味?」
「俺、ずっとアレフ様みたいになりたかった。…今だってそう思うさ。偉大な勇者で、偉大な王で…憧れる。 だから、ロトの装備を身につけて…俺、嬉しかったよ。」
 先ほど手に入れた、ロトの鎧を見た。
「でも、俺、アレフ様になりたいわけじゃねぇって、旅をして思った。アレフ様みたいな自分になりたい。」
 そういうと、レオンはロトの剣をはずして、ルーンに持たせる。
「…あれは、俺の剣だ。…俺が、俺として戦うための剣だ…そう、感じる。呼ばれたんじゃない…ずっとここに 来て、予感がしてたんだ…俺の片割れがいるって…」
 レオンはそっと近づいた。そうして当たり前のように稲妻の剣の柄に手を当てた。…それは本当に レオンに良く似合っていた。
 試すようにレオンが剣を振るう。そのすばやい動きに、稲妻の剣がきらきらと光り…ほんとに稲妻が 落ちているようにさえ見えた。
 ロトの装備を装備しているレオンは「アレフ様のよう」に綺麗だったけれど…ロト装備に 稲妻の剣を装備しているレオンは…「戦うレオン」だった。ルーンは思わずロトの剣を抱えたまま 拍手をした。
「うん、良く似合ってる。レオン勇者様、だね。」
「そうですわね、良く似合っていますわ。」

 そういったリィンの横に、いかづちの杖。…気がつけばその杖もリィンの片腕のようにそこに佇んでいて。
(いかづちの杖を持ったリィンと、稲妻の剣を持ったレオン…うん、きっと並べて絵にしたらとっても…似合うんだろうな…)
 そう考えると少し寂しくて…哀しかった。だが、その考えを首を振って取り払う。
「うん、レオン、それで戦ったらいいと思うよ。レオン。とってもかっこいいよ。」
「おう、さんきゅ。んじゃ、俺の後で悪いけどさ、ルーン、ロトの剣装備しろよ。」


戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送