ほとんど廃墟と化した神殿に、ぼんやりと人魂が浮かんでいる様は、まるでムーンブルクの城のようだった。
 ふっと意識が飛ぶような感覚。気がつくと、そこは見知らぬ部屋だった。
「…ここは…どこだ?」
「この神殿の二階だよ。ここから先はそんなに複雑じゃないから。ほとんど一本道だと思うよー。」
 にっこりと笑うルーン。その横にはリィンもいた。
「三人とも無事みたいだな。…あっちに階段があるな。あそこでいいのか?」
「ハーゴンは最上階にいるのね?」
 二人の問いに、ルーンは頷く。
「うん、きっとハーゴンは最上階の…大司教の間にいると思う…祈りの間でもあるから…一番魔力が集まりやすいんだ。 でも、気をつけてねー。もう知識があいまいで…この先にどんな仕掛けがあるかまではわからないんだー。」
「そんなことは、承知の上だ。行こうぜ。」

 階段を上がった先は、曲がりくねった廊下だった。廊下と言っても意外と広く、ちょうど三人の城を思わせた。
 足音が鳴り響くその廊下は静かで、敵の本拠地とは思えないほどだった。
「うわ!!」
 曲がり角を曲がったとたん現れた影に、とっさにレオンが剣を抜く。…だが、それは凶悪な魔物の姿をした銅像だった。
「…ったく、驚かせやがって…」
「それはこちらの台詞でしてよ。レオンの悲鳴に一番驚きましたわ。」
「あははー、僕もびっくりしたよー。でも、凄いねー」
 みると、そこには大きな銅像がみっつ、互い違いに配置されていた。それぞれ巨人や悪魔、モンスターを象っている 不気味なものだった。
「悪趣味ですわね…」
「まさか動き出すとかじゃないよな…?」
 レオンが恐る恐る銅像を覗き込む。
「モンスターの気配は感じませんけれど…?わずかな魔力は感じますわね…ルーンはどう思います?」
「…うーん、少なくともモンスターではないと…思うよ?…多分、邪神召喚の材料なんじゃないかな…?僕も 良くわからないよ…」
 おそるおそる近寄り、ルーンはそこかしこを覗いてみる。
「…まぁ、いい、早く行こうぜ。さっさとハーゴンを倒すのが先だ。」
「そうですわね、下手なことをするといらぬ災いを呼び起こすような気がいたしますわ。」
「うん。…早く行かないとね。」
 三人は廊下を足早に歩く。そして三人が三つの銅像の視線が重なりあうところに入った、その瞬間だった。
「駄目!!」
 魔力の発動を感じたルーンがそう叫んだ時は、すでに遅かった。三人の視界が白くなり、意識が飛んだ。


 気がつくと、そこは廊下ではなく広い部屋だった。
「…移動したのか?だって、像持ってなかったぞ?なんでだ?」
 レオンがそう言った時、初めて気がついた。…その部屋にはルーンもリィンもいないことに。
「…っだよ…ハーゴン…」
 自分の身体を見てみると、武器も防具も道具もちゃんとある。
(…なら大丈夫だ、戦える。)
 道はわからないが、それほどややこしくない作りだったはずだ。なら、すぐにも合流できるだろう。できるだけ 上を目指そう。剣を持ち直し、レオンは階段を探した。ほどなくそれは見つかる。レオンは慎重に そちらに向かい、歩いた。
「!!!!」
 とっさに飛び去る。死角からの攻撃だった。レオンが先ほどまで居た位置に、巨大な棍棒が振ってきた。
 ふりむくと、今までどこに隠れていたのだろうか。巨大な一つ目の化け物が一匹、そこに立っていた。先ほど いた、銅像の1つだ。
「…なんだよ、こいつと決闘しろってのか?ハーゴン?!」
「ソノトオリダ。我ガ名ハ”アトラス”空ヲ支エル者」
 それは、人ならぬ声だったが、確かに人の言葉を話していた。
「…へぇ、話せんのかよ。俺はレオン!レオンクルス・アレフ・ロト・ローレシア!!…そうだな、さしずめ 世界を救うものってところか?」
「オ前ノ行イガ世界ヲ救ウト、何故言エル。何故、オ前ハ戦ウノダ」
「さあな!!それは、この戦いの終わりに判るんじゃねえの?!!」
「ソウダナ、デハ…戦オウ」


 目の前の世界が広がったとたん、リィンは雷の杖をにぎった。いつでも発動できるように。
「…何も…ない?」
 下手をすると、モンスターで満ち溢れた部屋にでも転送されるかと思ったのだ。だが、その部屋は静まり返っていた。
 そして案の定、レオンとルーンはいなかった。
「…何をたくらんでおりますの!!出ておいでなさい!!」
 ハーゴンに対して呼びかけたリィンの言葉の返事は、しわがれた声で帰ってきた。
「…威勢のいい女だ…その臓物は、さぞ美しいんだろうな…」
「…また、ちんけな悪魔ですわね。貴方がわたくしの相手ですの?」
 いつの間にか、リィンの目の前には、先ほどの銅像の悪魔がそこにいた。
「俺は、ベリアルだ。おまえは何のためにここにいるんだ?…おまえの存在なんて、ここではなんの価値もないのだぞ?」
 ベリアルに、リィンはにっこりと美しく笑う。
「…さぁ?どうかしらね?名乗っておくわね。わたくしの名はリィン。リィンディア・ルミナ・ロト・ムーンブルク。 貴方のような愚か者には、この名の価値はわからないと思うけれど。」
 リィンのその言葉が終わると同時に部屋を満たした爆発が、この戦いの合図だった。


「…間に合わなかった…」
 予想通り、ルーンは見知らぬ場所にいた。…あれは一種の呪いだとわかったのは、その発動の瞬間なのだから、 間に合わないのは当然なのだが。
「早く、助けに行かなくちゃ…。だからね、悪いけど忙しいんだ、僕。いるなら早く出てきてくれるかな?風の悪魔、バズズ。」
「ケケケケケケケケケケケケ…」
 ルーンの言葉に、笑い声がこだまする。
「…戦う気がないなら、僕は行くよ?ここの出口の場所なら、僕、知ってるんだから。」
 そう言って、ルーンが一歩下がる。そしてそれと同時に、羽の生えたサルのような醜悪なモンスターがそこに降りてきた。
「おもしろおかしく生きてれば、死に急がずに済んだのに。戦おうとしなければ、楽に死ねたのに。ケケケケケケケケケ」
「それって、楽に死ぬっていうのかな?僕はそう思わないよ!!」
 そう言うと同時に、ルーンはロトの剣を一直線に薙いでいた。




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