このフロアは階段と奥に繋がる通路がある広間だとわかっていた。まず、 暗闇に目を慣らし、灯りをつける。そのしばらくの間。…希望は、そこで潰えた。 洞窟への道に繋がる通路の片側の壁が崩れ、大量の岩石で埋まっていた。
「…なるほど、こういうことかよ。ったく、意地のわりぃ奴だよな。」
「まぁ、そう簡単に行くとは思いませんでしたけどね。ただの土砂崩れだとは思いませんけれど、とりあえず 試してみましょう。」
 二人を下がらせ、リィンは呪文を唱える。先ほどの神父の祈りのせいだろうか。気がつくと魔力は満タンだった。
「イオナズン!!」
 爆発は岩石の真芯を捕らえ、全てを揺らす。爆発音は響き渡り、耳の中でいつまでも響いた。
 そして砂埃が晴れた時、先ほどと変わらぬ情景がそこにあった。
「…やっぱり、あの爆発でどの石もちっとも動いてない。これも封印だね。」
「隙間もないのか…念が入ってるな。」
 天井から床、崩れた片側の壁の向こう側。アリの入る隙間もないほど、岩がぎっしりと詰まっていた。その量も 半端なものではなく、人三人分以上の厚みがあるだろう。
「物理的にふさいだ後、魔力で封印したというわけですわね…やっかいだわ。…まぁ、無理でしょうけれど…」
 リィンが封印の前で静かに呪文を唱える。
「アバカム!!」
 開錠の呪文はなんの反応もないまま、空へと消えた。

「んじゃ、これでどうだよ?」
 そういうと、レオンはルーンの持っていた剣…ロトの剣を抜いて、岩石に走り出した。ガキッという音とともに、 その刃は跳ね返された。
「…神の祝福を受けたロトの剣なら、いけるかと思ったんだけどな…そう簡単にはいかねーか…」
「それでは…」
 リィンはルビスの守りを取り出して、岩石に当てる。
「…ルビス様…貴方に忠実なるしもべに、ご加護を…」
 守りをそっと岩に当てるが、守りは何も答えず、ただ静かにゆれていた。
「それじゃ、これは?」
 今度は邪神の像を取り出した。だが、その邪神の像はルーンが手に取ったとたん、ぼろぼろと崩れて、粉になった。… 先ほどのシドーと同じように。
「…駄目かー。うーん…困ったねー。」
 そういうルーンにレオンがロトの剣を渡す。
「俺の稲妻の剣と、リィンの雷の杖と、ルーンのロトの剣で、もう一回攻撃してみよう。」
「ええ。」
 リィンが杖を握り締めた。
「うん、判ったよ。」


 三人は一列に立つ。中央にルーンが霊鳥を構えて。そして左右にレオンとリィンがそれぞれ稲妻と雷を握っていた。
「いっけ!!」
「雷の杖よ!!この手に、神の炎を!!」
 二つの雷火が武器を飛び出し、岩石にぶつかる。そして三人が同時に封印に向かって走った。
「ええい!!」
「おりゃー!!」
「えい!!」
 そして伝説の三つの武器が生み出す閃光が、封印へとひらめいた。



「駄目だったか…」
 レオンが座り込む。封印も岩石も傷一つ付いていなかった。
「どうしたらいいのかなぁ。消されちゃった旅の扉を復活させるよりは、目の前にある 壁を壊す形で結界を解いた方がやりやすいと思うんだけどねー」
「まぁ、確かに目に見えるだけ楽だよな。」
「けれど、さすが神と呼ばれた者…半端な封印ではありませんわ。…魔法の玉でもあればよろしいんですけれど…」
「魔法の玉って…何?」
 ルーンがそう質問してきた。横でレオンも不思議そうな顔をしている。
「存じませんの?意外ですわね。かつて勇者ロトの生まれ故郷は人の手によって封印されていたそうですのよ。正確には 旅の扉のある洞窟を、壁でふさいでいたそうなんですけれど。それを解き放ったのが『魔法の玉』と呼ばれるアイテムですわ。 なんでも両手に抱える程度の大きさで、黒くて…不思議な匂いがするらしいんですわ。」
「ふーん、確かに今の状況と似てるかも知れねーな。でもまぁ、ないなら仕方ねーよ。」
 さらりと言ったレオンがルーンの方を見ると、ルーンはなにやら考え込んでいた。そして、突然道具 袋を漁りはじめた。
「ど、どうしましたの?」
「リィン!レオン!これ!!」
 ルーンが取り出したのは、かつてデルコンダルの裏道で占い師にもらった、薄汚れた筒だった。中を開けると 不思議な匂いのする粉がある。
「…本当…不思議な匂いだわ…魔法の玉の原材料…なのかしら?」
「なんでこんなのお前、持ってるんだ?」
「デルコンダルの占い師さんが渡してくれたんだよ。本当に困った時に使うようにって。…できれば 使うような時が来なければいいけどって。」
 ルーンの言葉にリィンが、感心したようにうなる。
「…予言でこうなることが判っていたのかもしれませんわね。 でも、これはどうやって使うのかしら…魔法の玉は壁の前において、火をつけて使うのだけれど…」
「適当にふりかけて、火ぃつけるんじゃねーの?」
「だめよ、レオン!貴重な物ですのよ?ルーン、どうしたら封印が解けるかしら?」
「…判ったよ。」
 ルーンが筒を持って立ち上がった。
「判ったって何がだ?」
 ルーンは振り返ってにっこり笑う。
「うーん、全部、かな?」


「ルーン、もうちょっと右だ!!ちょっと曲がってるぞ!」
 岩石にへばりついているルーンを、レオンが誘導する。ルーンは今、チョークで大きく魔法陣を書いていた。かつて ラダトームの図書館で見た、あの邪法と呼ばれる増幅の魔法陣だった。
「邪法の封印は邪法で解くしかないよー。」
 ルーンはそう言って、岩石にチョークで線をひき始めた。
「どうしますの?」
「このチョークの上に、さっきの粉をふりかけるんだよ。うん、任せて。二人は後ろで僕が書く魔法陣が ゆがんでないかどうか見てほしいな。図形はわかる?」
「…忘れられるかよ。」
 レオンが、顔をゆがめた。ルーンの胸に刻まれようとしていた、あの禍々しい魔法陣を生涯忘れることなどできないだろう。
「うん、じゃあ、お願いするねー。大丈夫、もうシドーもハーゴンもいないから。」

「リィン、レオンー、どこかおかしなところあるー?」
「いいえ、ゆがんだところは見受けられませんわ。」
 リィンの言葉に、ルーンはにっこりと笑って岩から降りて、砂を払った。
「うん、思ったより、綺麗にかけたよー。これからきっと、成功するよー。」
 白いチョークの上に、満遍なく粉は振り掛けられていた。
「しかしその小さな筒の中に、よくこんなに粉が入ってたな。俺、途中で足りなくなるんじゃないかと思ったぜ。」
「本当、ちょうどぴったりの量でしたわね。…きっと、ルビス様のお導きですわ。」
「うん、僕も本当にそう思うよ。」
 ここまでの道のりは、きっとルビスの導き通り。…運命なんだと、ルーンはそう思いながら微笑んだ。

 
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