(どう、すればいいんだ…俺は…)
 魔力がない自分にルーンを生き返らせることができない。その無力さが哀しかった。
 だが、嘆いている暇はないのだ。なんとしても、リィンに力を借りないといけないのだから。レオンはリィンを見た。
 リィンがマントをルーンだと思っているようだった。そのリィンは本当に今までに見たことがないくらい幸せそうで。
(もしかしたら…このままの方が…)
 一瞬よぎった弱気を吹き払う。フェオとの約束を。そして自分自身の心のためにも、諦めるわけにはいかないのだから。
(…あきらめる?)
 その言葉に、猛烈に腹が立った。リィンが幸せそうなのだ。本当に本当に幸せそうなのだ。

 レオンは立ち上がり、肩をつかむ。
 そうして、レオンは生まれて初めて、女に手をあげていた。
「ふざけんなよ!お前が、お前が諦めるのかよ!違うだろ?お前だけは、お前だけは諦めんなよ!!!」
 軽く頬をはたいただけとは言え、その衝撃でリィンの身体は床に倒れた。
「お前はルーンが好きなんだろ?だったら諦めるなよ!最後まで努力しろよ!何逃げてるんだよ!お前が、 お前が一番、生きてるルーンを望まないといけねーんだろ?!」
「…・・・」
 リィンは一瞬不思議そうにレオンを見つめ…やがてまたマントを抱きしめて微笑んだ。
 そんなリィンの胸倉を掴みあげる。そこまでしてもなお、リィンはレオンに関心はないようだった。ひたすら目の前の 『ルーン』と話をしている。そんなリィンに、レオンは怒鳴りつける。
 腹が立っていた。心底怒っていた。
「お前は偽者のルーンでいいのかよ!!好きなのは…本物のルーンなんだろ?俺も、お前も生きてる、本物のルーンじゃないと なんの意味もねーじゃねーかよ!!」
 …そして泣きそうだった。自分はあんまりにも無力で。逃げ込もうとしている弱い女を無理やり立ち上がらせようとしている 自分があんまりにも無力で。
「俺じゃ、俺じゃ駄目なんだよ!!俺ができることならなんでもするぜ?今すぐ世界樹の葉を取って来いって言われても、 もう一回シドーを倒せって言われるなら、やってくるさ!!…でも、俺じゃ、駄目なんだよ…リィン…」
 リィンは、もうレオンに関心をしめさなかった。赤くなった頬は、血に隠され目立たない。
「…ルーン、ずっと、ずっと一緒よ。もう、離さないわ。二人きりで…ずっとここで…」
「リィン!!正気に戻れよ!!俺じゃ駄目なんだよ…俺には、魔力がないんだ!!…俺に、魔力が、あったら…お前 みたいな、魔力があったら…」
 望んだことはたくさんあった。だが、ここまで切望したことはない。救えたかもしれない。封印を解く手伝いも できた。ルーンを蘇らす手伝いも出来たかもしれない。
 レオンは拳を強く強く握り締めた。
「…俺に、魔力が…あったら…」
 その瞬間、暗い広間に光が差した。



「なんだ!?」
 その光は、リィンの荷物から出ている。相変わらずマントと戯れているリィンに荷物に手を突っ込み、光源を探す。
「…ローラ、姫…」
 それは、復活の玉だった。レオンが袋から宝玉を取り出すと同時に、ローラ姫の姿が浮かび上がる。
「ついに、この時が来ましたね。レオン。貴方に魔力をお返しします。」
「…は?あ、いや、あの、どういうことですか?」
 思わずそう返す。そんなレオンを見てローラは笑う。
「本当に忘れてしまっているのですね、レオン。この身体が貴方の魔力で出来ていることを…」


 レオンは復活の玉を床に置き、ローラの話を待った。
「かつてレオン、貴方が私のところに来てくださったことを覚えていますか?」
「はい、うっすらとですが…ムーンブルクの地下にいらしたローラ様にお会いしたことは覚えております。」
「幼い貴方が尋ねてきてくださった時…この玉に込められたローラの魔力は、ほとんど尽きておりました。消え去りそうな 薄い姿で…とてもみっともない姿でしたけれど、私は貴方にお会いしましたわ。」
 ぼけた記憶を思い出す。敵のように見えた古い鎧。遠くでゆれているたいまつ。そして儚げに笑うローラ姫…
「ああ、そうか、ぼけてるのは記憶じゃなくてローラ姫…」
「ええ、私はほとんど消えかけておりました。そんな時、アレフ様そっくりの貴方が訪ねてきてくださった… 私は本当に嬉しかったですわ・・・そしてレオン、貴方は私を見てこう言って下さった。『どうして消えそうなの?しんどい?』」
 鈴が転がるような笑い声。ローラ姫は本当に楽しそうだった。
『苦しくはないの。けれどもうすぐ消えてしまうわ。貴方が私に会える、最後のロトの一族ですわ。』  声が蘇った。そのときの、ローラ姫の表情が鮮やかに脳裏に描き出される。
「…あ…」
「思い出しましたか?レオン?」
「うっすらと…俺は、あの時…ローラ姫が、儚くてかわいそうで…でも、ローラ姫、貴方が生きたがってる。 まだ消えたくないって、そう思っているように見えて…でも諦めているようで…俺は、それが嫌で…」
「「どうしたら、お姫様は消えない?何か、できることはある?」」
 二人同時に口にした。

「そう言ったレオンに、私は甘えてしまった…この先の行く末を、もっと見たいと…そう思ってしまった。 そして私は貴方に頼んだ…『貴方の魔力をいただけるなら』と…」
 そういったローラの表情は悔恨に満ちていた。
「本当ならば、それは過ちだったのでしょう。レオンに辛い思いを強いてしまった…私の意義は愛する アレフ様の血族を見守ることですのに…貴方に苦渋を強いてしまった。」
「違います、ローラ様!!俺は、俺はそれを後悔したことなんてない!俺は、魔力がなかったから! だからこんなに剣術が上手くなった。だから、後悔しなかった。」
「…貴方は本当に強い…そして本当に、アレフ様に似ていらっしゃいますのね。・・・本当の貴方の魔力は、 リィンと同じくらい強大なものだったのに・・・貴方はためらわず私にその魔力の全てを注いで・・・ そのまま倒れてしまいましたわ。」
「…だから、その後の記憶がないんですね、俺は…」
 ローラは頷いて、そして真剣な目でレオンを見つめた。
「ですが、いつかきっと、こんな日が来ると思っていました。貴方が心の底から魔力を欲する日が来ると。その時は 貴方に魔力をお返しすると、そう約束しておりました。今が、そのときです。」


 ローラ姫は、少し切なそうに微笑んだ。
「…本当は、此処まで長い間、こうして存在できるとは思っておりませんでしたわ。貴方が大きくなって…自らの魔力がないことを 悟れば、貴方は必ずそれを後悔する・・・私はそう思っておりました。ですが、貴方は 憧れることはあっても、決して本気で渇望することはなかった・・・」
 そっと透き通った手を、レオンの手に添えた。
「感謝しています。リィンディアの精霊の儀式をさせていただき…こうして、世界が平和になる様を私は感じることが 出来た。…すべて貴方のおかげです。」
「…俺は、嬉しかったから・・・ローラ姫が救えて、本当に嬉しかったから・・・フェオも、魔力が使えなくても 良いって言ってくれたし・・・」
「ありがとうございます。でも、貴方は今、魔力を望んだ。魔法を使えることを切望した。・・・だから、過去の亡霊の私は、 もう消える時です。貴方に、全てをお返しします。」
 ローラ姫がそういうと同時に、目をつぶった。ゆっくりと身体が光りだす。
「待って下さい!!俺は、俺は魔力なんかいらない!」
「・・・レオン?でも貴方はさっき・・・」
 不思議そうに言うローラに、レオンが搾り出すようにうめいた。
「ルーンが死んだ。俺たちを地上に戻すために。シドーの封印を解くために命を犠牲にした。・・・それを助けたい。 いくら魔力があったって、俺には知識も技術もない。俺じゃ、やっぱり魔力があってもだめなんだ。ローラ姫・・・ お願いだ・・・なんでもいい、どんなことだってする。 腕の一本や二本くれてやってもいい。ルーンを、ルーンを助けてくれ・・・」


 月。
 時によって形を変え、消えてしまうもの。狂気。/リィン。
 たとえ消えても、確かにまた現れるもの。淡く儚く、でも確かに闇を照らし出すもの/レオン。
 タイトルはそういう意味なのです。

 さて、ではルーンにはどういう意味なのか。そんなことを考えながら、次回をお楽しみに。

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