いつの間にか、雪が止み、ゆっくりと陽が差しはじめていた。だが、まだ大気を暖めるほどの力はなく、 冷風が洞窟を冷やしている。…だが、やがてその風も温かくなり、この大地に春が訪れる日は近いのだろう。

 床にはすっかり、魔法陣が描かれていた。ついさっき見ただけに、完成は以前より早かった。
「では…はじめましょうか。」
 そういうリィンの唇は震えている。
 今だって怖い。もし失敗したら、今度は何を糧に生きていけば良いのか。もう、行き場なんてどこにも ないのに。
 王家がなくとも、立派に生活していけそうなムーンペタにも、壊れてしまったムーンブルクにも…リィンの 居場所は、もうないのだ。
 …それでも、会いたい。温かくて、優しくて、いつも笑っていて…意志の強いルーンに、もう一度。 その為なら…自分の心がもう一度死んでしまうことなどなんでもないと、リィンは笑って見せた。
 ローラは、差し出されたレオンの手に、ゆっくりと手を重ねる。その手は光だし…そしてレオンの中に流れ出す。
「あち!!なんだ…これ…」
「我慢してください、レオン。元々は貴方の物なのですから。」
「か、かも、知れないけど…」
 痺れ入る感覚は、くらげに刺された感覚に似ていた。それがゆっくりと奥まで入り込む。痛くはない。ただ熱い。
 それがずっと奥に篭ると、ローラは満足したように顔をあげる。
「…魔法とか、呪文とかは考えなくてかまいませんわ。そうですね…稲妻の剣を振るうとき…いいえ、 相手の隙を見極める瞬間に似ていると、アレフ様はおっしゃっていたように思いますわ。」
 ローラの言葉に、レオンは頷いた。それならレオンの得意分野だ。
「あとはただひたすら、ルーンのことを願うこと。…これは、レオンには言うまでもありませんわね?」
「はい…。ローラ姫…あの…」
 顔を上げて、初めて気がつく。
「…薄く…なってませんか?」
 先ほどのローラより、格段に向こう側が見通しやすくなっていた。
「…気になさることではありませんわ。レオン。」
 くすっとローラが笑った。
「…さぁ…レオン、ローラ様…参りますわ。」
 リィンの言葉に、レオンは魔法陣に意識を集中させた。

 呪文が響く。この響きを聞くのは二度目…いいや、命の調べというのなら三度目だった。
 だが、この呪文がどこか一番愛しくて、切なくて、はかなくて…力強い。
(…ルーン。ここにいるんだろう?)
(ルーン…いらっしゃるのでしょう?)

 高らかに、呪文は流れる。

 真ん中に置かれたマントが光りだす。

(…どうか帰ってきて)

 身体から、全てが吸い取られていく。

(…帰ってこい)

 魔法陣が、淡く光りだす。

 ”ここに還って”

 そして、目がくらまんばかりの緑の光が、洞窟を照らす。

 そして最後の天の音韻が、リィンの口から放たれた。




 リィンはゆっくりと目を開ける。それは、先ほどと同じ行動だった。
 …そして、目の前の光景に、リィンの身体が凍った。
 その後ろから、声がかかる。怒気をはらんだ声が。
「…ルーン」
 レオンのその声は、剣呑たる響きに満ちていた。
「…レオン…」
 そして、その声は確かにずっと望んでいた声。
 ルーンはいた。すっかり血がなくなったマントの上に。まるでいなかったことが嘘のように、そこに座っていた。
  「…言ったよな?…次はこれだけじゃすまさねぇからなって。俺、言ったよな?」
 怒気をはらんだ冷静なレオンの声は、肝を冷やすぐらい恐ろしいものだった。
「…うん。」
「立て。」
 静かな空気は、すぐさま割れてしまいそうなほど張り詰めていた。
「…目ぇつぶれ。」
「…レオン…ごめんね。…うん、レオンの好きなだけ、殴ってくれて、いいよ。」
 そう言うと、ルーンは目をつぶって奥歯をかみ締める。そして衝撃に備えた。

 衝撃は、予想より激しくなかった。むしろ優しく、大きなものがルーンの肩を包む。
「…ルーン…ルーン…」
 レオンが、泣いていた。ルーンの肩を両手でしっかりと包んで。
 ルーンが目を開ける。
「…もう、やめろよ……ルーン…俺は…俺は、嫌だ…お前を犠牲に地上に戻るなら…ここで、一生暮らした方が…ましなんだよ…」
 大粒の涙をこぼしながら、レオンはルーンの肩を、痛いほど握り締めていた。
「…レオン…ごめん…ね?」

 リィンが駆け出した。ようやくそれが現実なのだと…そう思ったら耐えられなくなった。 MPどころか体力すらも使い果たしたその身体は震えるが、そんなことは構わなかった。
「ルーン!!」
 泣きながら、リィンはルーンに横から抱きついた。ルーンの身体が崩れ、座り込んだ。それでもルーンは優しく呼びかける。
「…リィン…」
 その声は耳朶を通じ、リィンの頭の上に達する。リィンはきつく、きつくルーンを抱きしめた。
「…ここが、寒くて…良かった…です、わ…」
「…どうして…?」
「…ルーンの身体が暖かいって…よく、わかりますから…」
 …これは、現実だと…ルーンに流れる暖かな血潮が、確かに伝えていた。
「…うん…暖かいね…」
 ルーンもリィンの身体を抱きしめた。…その身体は、やはり暖かかった。
 ぼろぼろと涙をこぼしながら、レオンとリィンはなんとかその言葉を言った。
「…おかえり、…なさ、い…」
 その言葉に、ルーンは応える。一筋の涙とともに。

「うん、ただいま…」



   む、意図的にはないにせよ、なんか某ゲーム『時間神引き金』の、死の山イベントに似てしまいましたね… ファンの方、すみません。私も大好きです。タイトルもなんか似ちゃってどうしようと思ったんですが、 なんかもう、どうしようもなかったと言うか…わざとじゃないんです、すみません…
 ローラ姫、本領発揮。この人若く見えても、もう160歳は超えてますからね(笑)しっかりしてます、この人は。 正確にいうと、レオン魔力ローラ風味なんですけど…9割レオンの魔力でしたし。

 ルーンとの再会、いかがだったでしょうか?わざわざロンダルキアが寒いのはきっとこのためだろうと(違います) 温度には気合を入れて書いたつもりでしたが…むずかしいですね。
 御話はもうちょっと続きます(すみません…)どうぞお付き合いください。

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