三人はムーンブルク城の横を通り、ムーンペタの方へと歩いた。かつてモンスターに 踏み荒らされた土地には新たな命が芽生えているのを肌で感じる。 暗黒の気配が消えた世界は、とても美しかった。隅々にまでルビスの愛が広がっているのを感じる。 「…もったいないね。」 「何がだ?」 「ハーゴンは、世界がこんなに綺麗なのに気がつかないままだったよー。」 空を見上げながら、ルーンはそう笑う。だがリィンは城の方を眺めながら苦笑した。 「どうでしょう?…ハーゴンはとっくに気がついていたのかもしれませんわ。ハーゴンのあの態度は… 両親に愛されなかった子供のようでしたもの。美しい世界に愛されたくて…でも愛情を感じることが できなかったから…反抗してみせたのかも、しれませんわね。」 それはかつての自分と同じ。 ルビスと対話し、親とふれあい、愛する人を見つけた今なら、こんなにも世界が綺麗に見えるのだから。 「ハーゴンは、マリィさんという方を好いていらっしゃったのでしょう?でしたら、世界が綺麗だった時もちゃんと あったはずですわ。」 「今頃上で何を話してるんだろうな。」 空を見上げて言ったレオンの言葉に、リィンは静かな表情で聞いた。 「…レオンは、ハーゴンも天国に行ったって思っていらっしゃるの?」 「この世界の全てはルビス様の子供なんだろ?だったらハーゴンも、等しく愛を注いでくださっているって俺は 思うよ。まぁ、この手で討った俺らが言う勝手な妄想だけどな。」 レオンは両手を空に向ける。 「この手もな。結局は血に染まってるんだよな。…今の俺たちはさ、勇者…なのかもしれねーけど。それは 俺自身が選んだことだからいいんだけどな。だから余計に…できれば俺たちくらいは、 ハーゴンが天国にいけたって願ってやってもいいんじゃないかって思うぜ。」 「あははー、レオン、アレフ様と同じこと言ってるよ。アレフ様もそうおっしゃってた。 勇者なんて、そんなに良いものじゃないって。…それでもアレフ様はそれで良かったっておっしゃってた。 ローラ様を守れたから。僕もそう思うよ。大事なものが守れたもの。」 ルーンの言葉にリィンは少し笑う。 「欲を言えば…あのまま精霊の儀式を無事に終えて、兄が帰って来てローラ様がわたくしが両親の 子供だと教えてくださって和解…なんて」 リィンは自分の言葉は笑う。 「そんなハッピーエンドも考えますけれど、その悲劇はわたくし自身ではきっと避けることができなかったですから… 自分自身の力で積み上げた今の平和も、わたくしも悪くないと思っておりましてよ。」 空を見上げる。空にいる誰かに語りかける。 「俺も、後悔はしてねーよ。決めたことだからな。そうしないといけなかったことだから。 多分、勇者ってのは他人の命の重みを背負って生きていく…そういう生き方をする人間の事なんだ。」 ムーンペタの町も、盛大な祭の最中だった。まるで王族の誕生日のように、屋台は出され、人は浮かれ騒いでいた。 「すごいねー。」 三人はマントやケープで顔を隠しながら、宿屋へと向かう。 「おやおや、お客さん、おめでとう。」 宿の女将の挨拶はそれだった。 「なにがおめでとうなんだ?」 「何言ってるんだい、まさかあんたら知らないわけじゃないんだろう?あのロトの末裔が、邪神官ハーゴンを倒して 世界に平和を取り戻したんだよ!!」 「ううん、知ってるよー。そうだね、おめでとうー。でも、すごいお祭だねー。」 どうやら女将は話好きのようだった。おそらくお祭にいけなかった鬱憤がたまっていたのだろう。 立て板に水を流すように話し出した。 「ああ、なんていったってここはロトの末裔、ムーンブルクのお膝元。ハーゴンを倒した勇者の一人は、 ムーンブルクのたった一人の生き残りリィンディア王女様だからね!!親と国の仇を討つためにお姫様が旅に出られて、 立派にその役目を果たされたなんて…泣ける話じゃないか。さぞお辛かったんだろうねぇ…」 深くかぶったケープの奥で、リィンは涙をこらえていた。 「じゃあ、その王女さんを祝うお祭なのか?」 「いいや、今はまだ旅から戻られないけど、戻られた暁にはきっと、立派にこの国を建て直してくださるってね。 あたしたち、楽しみにしてるんだよ。」 国を建て直すと決意をした裏側で、リィンは怖かった。 ただ血があるというだけで、誰かを認めさせることなんてできるのだろうかと。 自分は必要ないかもしれないと怖かった。ここの人たちは、自分たちの力で逆行に立ち向かっていたから。 それでも待っていてくれた。必要としてくれた。認めてくれた。 「おや、どうしたんだい?お連れさんの様子がおかしいようだけど。」 「うん、女の子だから、ちょっと長旅で疲れたんだよー。」 ルーンの言葉に、女将は満足そうに頷いた。 「ああ、そうかいそうかい。でもようやく女が長旅できるようになったんだね。あんたたち、これからどこに行くんだい?」 「んー、とりあえずサマルトリアに行って、それからローレシアかなー?」 「ローレシアかい。なにかあるのかい?昨日の客もローレシアに行くって言ってたね。」 女将の言葉にレオンは目を丸くして、身を乗り出した。 「そのお客さんたちって…どんなやつらだった?」 「んー、20人くらいでね、そうそう、あんたらみたいに布を全員がかぶってたよ。お祭騒ぎだってのに、どこかびくびくしててねぇ …怪しいと思ったけど、盗られた者はなかったよ。」 「で、そいつらは、ローレシアに行くってのは確かなのか?」 「ああ、確かだよ…そうそう、ローレシアの王子が国に戻ってるか聞かれたけどね。あの連中が王子様に一体なんの用だったん だろうねぇ…あんたたち、知らないかい?」 (…あの海底の洞窟であったやつらだ…) これだけでは何もわからないけれど、レオンはそれが誰なのかなんとなく判ったような気がした。 どうして旅の扉を通ってこなかったのかはわからなかったが、おそらく城の内部に直結しているため、戸惑ったのだろう。 覚えていた。あの約束を覚えていた。自分自身の出した答えを、それに導いてくれた恩人を忘れてはいなかった。 そして、その恩人たちは自分を信じてこちらに向かってきていた。それが、何よりも嬉しかった。 「大丈夫だよー。ローレシアの王子様も、勇者様なんでしょ?だったらどんな相手だって平気だよ!」 ルーンの言葉に女将は当然のことのように頷いた。 「もちろんだよ。ああ、そっちの女の子、疲れてるんだったけね、すぐ部屋に案内するよ。」 窓の外はお祭騒ぎ。 「平和だねー。」 「そうだな。」 「…嬉しいわね。」 旅の最後の夜を、三人はこの上なく幸福な気分で過ごした。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||