それから数日後。サントハイム城に一人の少年が移り住む事になった。
 その少年の名はクリフト。神官見習であり、第一王女アリーナの学友として城に住む名誉を、 王の教育係であり、片腕であったブライから与えられた。

 心臓が、つぶれそうに鳴っている。
(静まれ…静まれ…)
 近くで見たお城は、遠くの山々よりも大きく、クリフトの身体を押しつぶさんとしていた。
 まして。
(ブライ様はああ言ってくれたけど、私みたいなのが、ここでよく思われないだろうし…)
 慣れているし、覚悟はできている。が、不安が胸に押し寄せてくる。
 それでも、クリフトは一歩踏み出し。
 ゆっくりと、兵士によって開けられた大きな城門をくぐった。


 とさりと、教会の片隅の部屋に荷物を置く。
 城の教会に入り、最初に出迎えてくれたのは神父の笑顔だった。
「よく来たね。ブライ様から話は聞いているよ。」
 神父はホッとしたようにクリフトに言ってくれた。
「これからお世話になります。」
 そう言って頭を下げたクリフトに、神父はホッとしたようだった。
「あのブライ様が推薦した少年だから間違いはないだろうとは思ったが…思ったより良い感じだ。」
「ありがとうございます。」
(あの…ブライ様…?)
 その言葉に妙な含みがあるような気がして、一人、部屋でクリフトは少し考え込んでいた。

 ”コンコン”
 その音にクリフトは呼び覚まされた。
「はい。」
 立ち上がると扉の向こうから知った声がした。
「ブライだ。疲れているだろうが、姫様に紹介したい。出られるか?」
「はい!」
 また、緊張で胸が高鳴る。
 御年4歳のアリーナ姫。
(どのような方なんだろう…?気品や高貴さに溢れているのだろうか?それとも、とても高飛車だったり するんだろうか?)
「姫」というイメージから出る不安と期待。
   ブライの後に続き、謁見の間へ向かった。
 階段をあがる。王は玉座にはすわっていなかったので、クリフトはホッとした。 いきなり王と会うのはさすがにまだ覚悟が足りない。
 その心を見越してか、ブライは無表情の中に少しだけ笑みを浮かべた。
 そして…視線の横に、小さな女の子がいた。
 緋い目、すこしウエーブかかった栗色の髪。…美少女、とまではいかないが、愛らしい…少なくとも クリフトが今までの短い人生で見た中では一番可愛らしい、と言える少女が立っていた。
「アリーナ姫様、この者がこれから姫様の教育係であり、学友となる神官見習のクリフトです。」
 ブライにそう言われ、クリフトは背筋を正した。
「お初にお目にかかります!アリーナ様。私はクリフトと申します。これからよろしくお願いいたします!」
 目の前にいる少女の顔を見て挨拶をし、頭を下げる。
 頭をあげると、少女はじっとクリフトの顔を見続けた。
「…なにか…?」
 顔についているのだろうか?そう思って、顔に手を当てた。
 それでも、少女はなおクリフトの顔を見続けた。
「どうか、なさいましたか?」
 何も付いていない事を感触でたしかめると、もう一度少女の目を見ながらクリフトは聞く。
 すると、少女は破顔した。
「よろしく!えーと…」
「クリフトで結構ですよ、アリーナ様。」
 そういうと、さらに嬉しそうに笑う。
「うん、クリフト!ねえねえ、今日のお勉強終わったの。兵士達が色々教えてくれるから、一緒に行こう?」
「ええ…」
 まるっきり普通の子なのだ。ただの女の子。
 クリフトは拍子抜けしていた。先ほどの沈黙は緊張していたのかもしれない。
(王族とはいえ、結局はただの人…なんだな…)
 すこし残念に思いながら、はしゃぐ少女を、近所の女の子と遊ぶような感覚で、クリフトは手を引かれていった。


 二人の後姿をクリフトは見送った。
 笑い顔がつらかった。
 とても嬉しそうに、笑う顔。
 それは失われたもの。還って来ないもの。…現世(ここ)にあっては いけないもの。
 それがここにあることが、辛い。苦しい。
 それを見続けなければいけないと判っていても、眼をそらしたいと思う。
 どうして姫様は笑うのだろうか?哀しみにくれず、どうしてあれほどに嬉しそうに笑うのだろうか?
 王妃は姫の幸せを願っていた。だから、笑ってほしいのに。
 笑って欲しくない。その顔を…見たくはない。
 幸せを、願えない。少しでも遠ざけたい。
 そんな心を重く、辛く感じながらブライは二人をただ見送った。


 変わることのないと思える心。  だが、運命のカウントダウンは、すでに始まっていた。

 ブライの心の氷が、ゆっくりと溶け始める日まで、あと二日。
 そして、クリフトの心の空が定まる日まで、あと二日。

   すみません!あとちょっと伸びます…終わらなかった…。
 次回は二日後の話になります。「星の導く〜」に出てきたエピソード登場予定です!
 しかしすっかり主役をクリフトに変わられてるようですね…でも、ブライにとって老体に 鞭打ってまで共に旅をしようと思えるほど大切な人たちなのですから、ある意味当然かもしれないのですが。
   では過去から現在へ連なる様を、どうぞご覧くださいませ。

 
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