ヒミコの最後の一言が余りに怪しすぎると三人の意見が一致し、結局ヤマタノオロチを退治するために、 ヤマタノオロチが出るという洞窟へ、カザヤの案内で向かうことになった。 山の奥ではあるが、獣道とも見まごうばかりの道はちゃんとある。それでも生贄を捧げる、一年に一度 しか普通は訪れないらしい。 「僕は体を鍛えるために何度も行ってるんだけど、溶岩が凄いから暑いんだ。」 カザヤがそんなことを行っているうちに、ようやく洞窟に到着する。入ろうとするカザトをエリンは制す。 「ここまででいいわ、カザヤ。ありがとう。貴方は戻ってヤヨイさんを守ってあげて。」 「オレ達が戻るまでよろしくな。あと、終わったら飯でもくれると嬉しいが。」 「頑張ってくるわね。……ヤマタノオロチ……弱いと、いいんですけど……。」 そういいながら、三人は洞窟へ入っていく。 「気をつけてね、ねーちゃん、にーちゃん!!」 カザヤの声がそれを見送った。 カザヤの言ったとおり、入った瞬間物凄い熱気が体を包む。何度も戦闘を繰り返していると、 すでにその何倍も体力が奪われている。 「……これ、モンスターにやられる前に蒸し焼きになりそうなんだが……」 そう言う横で、クレアが服の首の部分をパタパタしているのが目に入り、そっと目をそらす。流れる汗とあいまって なかなか色っぽかった。 エリンは不運なことに、モンスターに髪紐を切られてしまったらしい。相当に暑いらしく、手で髪を握り締めた。 「そうね……たまらないわ。けれど逆に考えれば、この暑さに耐性がある魔物は寒さに弱い可能性があるわね。考えてみれば オロチということは蛇なんだろうし。」 「へ、蛇、ですか?」 クレアが暗い顔をする。エリンは目を丸くする。 「あら、苦手なの?カエルは平気だったじゃない?」 「いえ、カエルもあんまり得意でもないんですけれど……いえ、頑張ります。」 旅に出た以上、避けられないことだろう。そんなクレアの頭を、ルウトはそっと撫でる。 「クレアは、本当に頑張ってるよ。まぁ、エリンが攻撃呪文でオレが打撃、クレアは回復と補助魔法に割り振りすれば、 クレアはあんま近寄らなくてもいいだろうし。もし出来そうなら攻撃してくれ。」 そうして三人は、出た敵をエリンの呪文と鞭で打ち払いながら、洞窟の奥まで進んでいった。 「……まぁ、悪趣味だこと。」 「かわいそう……。」 「ひでぇな……。」 2階の奥。設えられた祭壇の周りには数々の骨が食い散らかされていた。壁に垂れ下がった手錠がなんとも 残酷だ。 この手錠につながれたまま、巨大な蛇に食われたのだろうか。その光景をちらりとも想像すると震えが来る。 「クレア……大丈夫か?」 その震えを見て取ってか、ルウトはクレアの肩を抱く。 「多分、もうすぐそいつに会える。クレアはどうする?」 「……行く。ルウトの側なら平気だし……私も、怖いけど、でもこの人達はもっと怖い。」 クレアはそっと祈りを捧げる。怒りの気持ちは三人同じだった。 「さっさと目に物を見せてやりましょう。」 その祭壇から右に曲がると、溶岩に大きな橋が架かっていて、そしてその先に、大きな八つの蛇の頭を持つ化け物が こちらを見ていた。 「お待ちかねのようね。……マヒャド!!!」 エリンの呪文に答え、吹雪がヤマタノオロチを襲う。首のいくつかが凍りつくが、それをなんとか振り払らい、 横にいたルウトに一匹が食いにかかる。その牙がルウトの肩に刺さった。 「べホイミ!!」 すぐさまクレアがルウトを回復する。幸いそれほど深くなかったのか、傷はなんとかふさがった。 「大丈夫。」 ルウトもクレアに魔法をかけ、そして立ち上がる。 「マヒャド!!」 エリンの呪文が再びヤマタノオロチのあちこちに氷柱を突き刺す。大分効いたらしく、ヤマタノオロチは吼えた。 そして、その呪文の持ち主を食わんと口を開けて襲い掛かる。 「これでも、食らえーーーーーーーーーー!!!」 その首を、力いっぱい蹴飛ばしたものがいた。不意打ちだったからだろうか、その首はまともにそれを食らい地面に へばりつく。 「……カザヤ!!」 エリンの言葉にカザヤはエリンに頭を下げて、ヤマタノオロチをにらんだ。 「よくも今まで、僕たちの国を苦しめてくれたな!!!」 その後ろから、ルウトがヤマタノオロチを鞭で打ち払う。その背に大きな傷がつき、そこに 「マヒャド!!」 エリンが氷柱を突き立てる。そして、 「ユキノねーちゃんの、仇!!!!!!」 近くにあった首のあごを、カザヤは力いっぱい殴りつけると、その首から何かが飛び出した。 そして、ヤマタノオロチはそのままよろりよろりと後ろに下がり、そのまま溶岩に飛び込んだ。 「やったか?!!」 ルウトがその溶岩を覗き込むと、そこには奇妙な渦巻きが巻いていた。それを見て、クレアがわななく 「……なんだか、旅の扉と同じ感じがするけれど……まさか、生きて……。」 その横で、カザヤはヤマタノオロチが吐き出したものを見ていた。それは緑色に輝く、美しい剣だった。 「……カザヤ?」 「これは、うちの家宝で……ずっと前になくなって皆が探してたら、ヒミコに献上されたって聞かされた。それが、こんなところに ……。」 「……ヒミコが持っていたということ?」 エリンの言葉にカザヤは首を振る。 「ユキノねーちゃんだ。ねーちゃんはきっと、ヤマタノオロチが良くないものだってわかって、これを持ち出して……多分、一緒に……。」 カザヤは哀しそうにそう言うと、その剣を持って立ち上がる。 「ルウトにーちゃん。この剣は草薙の剣。悪を討つ剣だ。僕には使えないけど、良かったら使って欲しい。それで。 ユキノねーちゃんの……仇を一緒に討って。」 そう言ってカザヤはルウトにその剣を渡すと、ルウトはそれを受け取って頷いた。 「ああ、分かった。」 「ごめん、エリンねーちゃん、皆。心配してくれてたのは分かったんだけど、僕がやりたかったんだ。」 後についてきたことを、カザヤはそう言って謝る。エリンは首を振った。 「いいえ、貴方の気持ちを考えれば当然の事ね。ここまで無事にたどり着いてよかった。それじゃ、行きましょう。 行く先は、おそらく……。」 エリンが言葉にせずとも分かった。そうして、魔の作り出した旅の扉に飛び込むと、予想通りそこはヒミコの館だった。 「ヒミコ様、どうしてこんなお怪我を……。」 そう戸惑う男の側で、傷だらけで苦しそうにしているヒミコ。そしてヒミコの声が頭に響いた。 ”妾の本当の姿を見たものはそなた達だけじゃ。黙って大人しくしている限りそなた達を殺しはせぬ。それでよいな。” 「ふざけるな!!ユキノねーちゃんを、皆を返せ!!!」 「ほほほ、そうかえ、ならば生きては返さぬ!食い殺してくれるわ!!」 ヒミコはそう叫ぶと、途端にその姿をオロチに変え、屋敷を押しつぶしながらこちらに襲い掛かってきた。 エリンの呪文で、クレアとカザヤの打撃で、そしてルウトの草薙の剣でヤマタノオロチは傷つき、そして。 最後にカザヤがその体に力いっぱいこぶしを入れると、その姿はゆっくりと崩れていった。 カザヤはそれを見て、目をごしごしとこする。 「……泣かないよ。僕、男だもん。泣かないよ。」 「そうか、偉いな。」 ルウトが頭を撫でる。カザヤはもう一度目をこすり、にっこりと笑った。 「ありがとう、ルウトにーちゃん、エリンねーちゃん、クレアねーちゃん。皆が来てくれなかったら、ヒミコの姿を した化け物に、ヤヨイねーちゃんは食われてた。僕一人じゃ無理だった。ありがとう。」 「そんなことないわ。助かったわ、カザヤ。強かったわよ。」 エリンの言葉に、カザヤはにこっと笑った。 横では事態を把握した館の者達が右往左往している。人も集まりだした。 「みんなに説明しなくちゃ。来て、皆!!」 カザヤに案内され、着いたところはヒミコの屋敷の次に大きな家だった。 どうやらそれはカザヤの家で、しかもなかなかに偉い人らしく、簡単なカザヤの話を聞いて、父親が飛び出していった。 そして母親は三人に深々と頭を下げた。 「そうですか、本当にありがとうございました。ともかくお疲れでしょう、何か召し上がられますか?それとも、 お休みになりますか?」 そう言われ、高ぶっていた体に疲れと、そして空腹が襲う。 「……オレは腹減った。クレアとエリンはどうだ?」 「そうね、食事をお願いできるのなら。」 エリンがそう言って頷くと、クレアが躊躇いがちに口にする。 「あ、あの……もしあれば、その体を流したいんですけれど……。」 「まぁ、それでしたら、先にお風呂になさってください。その間に食事と寝床の支度を整えておきます。食事の 際に詳しい話をお聞かせくださいね。」 そうして三人は始めて見る風呂で体を整え、ジパング風の寝巻きを着せられ、そして食事を取った。 その食事中に、カザヤの父、母、ヤヨイに簡単に事情を説明する。 魔王バラモスが世界を滅ぼそうとしていること。ルウトの父オルデガが、挑んだが死んでしまったこと。 そしてルウトは勇者として旅立ち、エリンに導かれ、その魔王の城に向かうためのオーブを求めてやってきたこと。そして ヒミコのことだ。 一通り聞き終えて、カザヤの父は深々と頭を下げる。 「私の息子、娘、そしてこの国をお守りくださり、ありがとうございます。明日の朝にはオーブをそちらに 渡せるように手配いたしましょう。それと、その草薙の剣、よろしければお持ちください。勇者殿の お役に立てるならば……ユキノも救われましょう……。」 そう感慨深げに言うカザヤの父の言葉に、ルウトは頷いた。 「……にーちゃん達は、明日にはもう行くの?」 「ええ、明日の朝には。」 エリンの言葉に、カザヤは魚の骨をよけながら、寂しげにつぶやいた。 「……そっか……。」 タタミに直に敷かれた布団と言うものはどうにもなれなかったが、それでも湯船につかったせいだろうか、 体が温かく気持ちよく眠れた。 そして、朝。カザヤの父がオーブをルウトに手渡す。オーブはきらりと紫の輝きを放った。 「ありがとう。……あの、カザヤは?」 そう、ここにはカザヤの両親、そしてヤヨイはいるが、カザヤはいなかった。 ルウトの言葉に、ヤヨイは困った笑みを浮かべる 「……寂しいから見送りたくないって言っているのです。」 「そう……。お世話になったと伝えておいて。感謝しているわ。」 エリンがそう言うと、ヤヨイは頭を下げた。 「……いいえ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。」 船はゆっくりとジパングを離れる。次の目的地はグリーンラッドだ。 ジパングの村は、ヤマタノオロチから解放された祝いと、そして慰霊の祭りをすると言っていた。それにカザヤは 出るのだろうか。 「薄情だよな。顔ぐらい見せてくれてもいいのによ。」 「せっかく仲良くなったのに、寂しいな。」 ルウトとクレアがジパングを見ながらそうつぶやく。エリンも船を操縦しながらも、やはり最後に顔が見られなかったのが 心残りだった。 「そうね。せめて直接言いたかったわ。」 「うん、じゃあ、これからよろしくね、エリンねーちゃん、クレアねーちゃん、ルウトにーちゃん。」 ばっと顔を上げると、船室の屋根の上に、小さな人影が座っていた。それは笑顔でこちらに手を振っている。 「カザヤ!?」 「僕、着いていくことにしたから。よろしく。」 カザヤはそう宣言して、にっこりと笑った。 「戻りなさい。」 エリンが屋根に向かって呼びかける。だがカザヤは笑ったまま首を振る。 「嫌だよ、僕、ルウトにーちゃんたちと魔王退治に行くって決めたんだ。だから帰らないよ。」 カザヤは幼い顔に真剣な表情を浮かべそう言い切った。 |
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