〜 31.レイアムランド 〜


 吹き荒れる吹雪と雪原の中、雪を掻き分けながら四人は進む。
「……寒いね。」
「もうすぐのはずよ。方向はあっているわ。」
 クレアお手製のマントで体を覆いながら、突き進むと、やがて小さな塔が見えた。四人は一心不乱に足を進めた。
 その塔の入り口に近づいた途端、暖かな空気が四人を包む。
「暖かい……。」
「そういや、屋根もないのに雪が降ってねーな、ここ。」
 ルウトはそういいながら、雪を払い、防寒具を取る。他の三人もそれに習いながら体を温める。
「結界のような物が張られているのかもね。」
「それにしても高い塔だね。この上に、ラーミアって鳥がいるの?」
「霊鳥ラーミア。不死鳥ラーミアとも呼ばれるわ。結界を解き、必要とされるのならば異世界にまで 飛べるという伝説の鳥よ。行きましょう。」
 エリンを先頭に、塔の階段を登り始める。それは塔というよりも、高い、高い祭壇と言った方が正確かもしれない。 最上階につながる階段を、四人はひたすらに上っていく。
 最上階で四人を待っていたのは、巨大な巨大な卵。そしてその周りを囲むように、大きな金の燭台が六つ。そして 卵を守るように二人の巫女が立っていた。
「うっわぁ、すっごくおっきな卵だね!!!」
 驚きのあまりカザヤが声を出すと、巫女がこちらを向いた。
 その二人の巫女は、同じ顔をしていた。そしてその巫女は四人を見ると、まったく同じ声で話し始めた。
「「私たちは卵を守っています。」」
「六つのオーブを金の冠の台座に捧げたとき……。」
「伝説の不死鳥ラーミアは蘇りましょう。」
 まるで合唱のようにそう告げる。どうやら周りの燭台のようなものに、オーブを置けばいいらしい。それで ラーミアが蘇るのかとルウトは小さく首を傾げたが、エリンはさっさとオーブを取り出し始めた。
「あ、悪い。オレも手伝うぜ。」
「ありがとう。お願いするわ。」
「私も……これは、どこに収めてもいいのでしょうか?」
 クレアの言葉に、巫女は小さく頷く。
「いいみたいだね。じゃあ、せっかくだから、これ、もらうね。」
 カザヤが紫を抱えて、一番奥まで走り出す。三人もそれぞれオーブを抱えて台座に備える。その途端にぽっと横に 灯りが燈った。
 そして全てを置いたとき、六つのオーブと巨大な卵が呼応しあうように光りだす。そうして、 オーブの中央から光が卵へと入っていった。

「な、なんだ?」
 思わず四人は卵の側に寄ると卵は恐ろしい勢いで震えている。
「「わたしたちこの日をどんなに待ち望んでいたことでしょう。」」
 巫女は感無量と言った表情で、卵を見つめている。
「さあ祈りましょう。……時は来たれり、今こそ目覚めるとき。」
「「大空はお前のもの!舞い上がれ天高く!!」
 まるで呪文のように巫女がそう声を合わせたとき、卵は割れ、中から巨大な美しい鳥が生まれ、礼を言うように 上空を回りながら飛んだ後、ふいっとどこかへ飛んでいった。
「伝説の不死鳥ラーミアは蘇りました。」
「ラーミアは神のしもべ。心正しきものだけがその背に乗ることを許されるのです。」
「さあ、ラーミアがあなた方を待っています。外に出て御覧なさい。」
 巫女にそう促され、四人は塔を降りていく。
「……ルウトにーちゃん、クレアねーちゃん、どうしたの?なんか浮かない顔だよね。」
 カザヤが二人の顔を覗き込む。クレアはびくっとして、なんとか笑みを浮かべる。
「いえ、なんというか、驚いてしまって……すごく大きくて綺麗だったから……。」
「いや、オレは心正しき者って自信ねーなって思ってな。乗れなかったらどうするよ。」
 ルウトは空を仰ぎながら言う。そんなルウトにエリンは笑った。
「心配ないわよ。ルウト、貴方はちゃんとブルーオーブを取ってこられたじゃない。きちんと認められているはずよ。」
「えっと、エリン、私も……あまり自信がないです……。」
 おずおずと言うクレアに、ルウトはぽんっと頭を乗せる。
「クレアは心配いらねーよ。オレのクレアが認められないはずはないからな。」
「まぁさ、とりあえず言ってみようよ。」
 カザヤがひょいっと階段を下り、塔の結界を出ると、あれほどひどかった吹雪は収まっていた。そしてその白い世界にさえ 勝る真っ白なラーミアがじっとこちらを見ていた。

 きらきらと光る美しい尾羽。赤く輝くとさか。まさしく神の鳥と呼ぶにふさわしい鳥は、ただ穏やかな視線を こちらに向けている。
「うわー、すごく大きな鳥だー。君がラーミア?」
 感心した声を上げるカザヤの横で、クレアは戸惑いながらそっと手を伸ばす。
「……あの、その、……乗せてくださると聞きましたが、私のようなものでも、乗せてくださいますでしょうか……?」
 ラーミアは何も言わず、ただじっとクレアを見つめる。
「ずっとルウトは勇者として頑張ってくださいました。エリンはたくさんの力と知識で導いてくださいました。カザヤは 大事な者を置いて、一緒に来てくださいました。……私はただ目をそむけてきただけです。それでも……大丈夫でしょうか?」
 ラーミアは小さく頷いた。エリンはそのうしろからぽん、と肩を叩く。
「クレア、大丈夫よ。貴方にもとても助けられているのよ?」
「クレアねーちゃんのご飯もおいしいし、たくさん回復してくれてるじゃないか。」
 カザヤもそう言って、エリンに続いてラーミアによじ登っていく。そして。
「クレア……違うって。クレアは頑張ってる。オレをちゃんと支えてくれてる。精神的にもそうだが、 ちゃんとさ、戦闘でも色々……気がついてないかも知れねーけど、立派な戦力なんだぜ?クレアは逃げずにここまで 来たんだからさ。」
 そういいながら、ルウトはクレアを背中から抱きしめた。
「ルウト……。」
「一緒に魔王の城まで来てくれるか?」
「……はい、ルウト。」
 クレアは頷くと、ルウトと一緒にラーミアに登る。ルウトはラーミアの首近くに立つと、広い背にそれぞれ 座っている三人を見た。
「なあ、三人とも。オレ、魔王を倒したら三人に言わなきゃいけないことがあるんだ。だから、 生きて帰ろうぜ。」
「ええ、当然よ。」
 エリンが笑う。
「もちろんだよ!」
 カザヤが元気に答える。
 そしてその横で、クレアが小さく頷くのを見ると、ルウトはくるりと反転し、まっすぐ北を指差した。
「行ってくれ、ラーミア!ここから北、魔王バラモス城へ!!!」
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