〜 44.ギアガの大穴 〜


 カザヤが集合の地に降り立つと、そこにはエリンがたたずんでいた。
「エリンねーちゃん、早いね。」
 そう声をかけると、エリンは小さくため息をついた。
「やっぱり来てしまったのね。」
「うん、決めたからね。ちゃんと皆に話してきたよ。納得してくれたから大丈夫。」
 にっこり笑うカザヤに、エリンは少し考えて問いかける。
「貴方は私がいるからといったけれど、もし私が残るといっても旅に出るの?」
 その言葉に、カザヤはしばらく考えた。
「うーーーーーーーーん、うーーーん、うん、多分そうじゃないかなぁ。説得するとは 思うけど、それでも駄目だって言うなら会えないのは寂しいけど、行くんじゃないかなぁ。」
「貴方は私が好きだから来たのではなかったの?」
 すこしいじわるなエリンの言葉に、カザヤはてらいもなく答える。
「もちろんだよ。でもさ、結局ほっといてもあのゾーマって言う奴に殺されちゃうなら出来る限り なことがしたいし、知っちゃったらちゃんとどうなったか知らないと気持ち悪いじゃないか。二度と会えなくても、 それがエリンねーちゃんを守ることにもなるしね。」
 カザヤは微笑んだ。まっすぐにエリンの目を見る。
「想いは人によっても時によっても違うものだよ。ルウトにーちゃんは何があってもクレアねーちゃんと一緒に いたい。僕だってできればそうしたいけど、それより僕はエリンねーちゃんを守りたい。でも 同じだよ。僕はエリンねーちゃんが好きなんだ。……あ、そうだ。」
 まっすぐに言われ、若干うろたえているエリンを置いて、カザヤは手に持っていた木の枝をエリンに差し出す。 わずかに色づいた薄紅の素朴な花が咲いている木だった。
「これは?」
「エリンねーちゃんに見せたいと思ってさ。今満開ですごく綺麗なんだけど、そんな暇ないでしょう?だからせめてこれだけでも って思って。」
 その枝をエリンは受け取って、ハンカチで丁寧にくるんだ。
「ありがとう。……あと、一緒に旅が出来る事は嬉しいわ、正直ね。」
 その言葉に、カザヤはぱっと顔を輝かせた。

 空を見上げると、そろそろ太陽が中天にさしかかる。
「そろそろなのだけれど、……来ないのかしら。」
「仮に来なかったとして、僕たちだけで行けるかな……?」
「どうかしら……そもそもラーミアって今どこにいるのかしらね……。」
 そんな話をしている二人を、大きな影が包む。みあげると、そこにはすぐそばに着地しようとしているラーミアの姿があった。
「よう!悪い、遅れたか?!」
「エリン、カザヤ、来てくれていたのですね?!」
 ラーミアの背中から、ルウトとクレアが声をかける。カザヤは手を振る。
「ルウトにーちゃん、クレアねーちゃんも行くんだね!やったぁ!!」
「本当にホッとしたわ。」
 そう言いながら、二人はラーミアによじ登る。微笑んでいたクレアの顔が、少し引き締まった。
「ずっと不安でした。二人は私が勇者だと知ってしまって……正直なところ、今でも私は勇者だと、 その役割が果たせるとは思えません。何かの間違いじゃないかと思っています。それでも……、」
 そのクレアの言葉を遮って、エリンは真顔で言葉を返す。
「大丈夫よ。どんなに弱くても私の後ろに着いてきさえすれば、本物の勇者にしてあげるから。」
 その言葉に、クレアがぷっと吹き出す。エリンも笑い、そして四人皆が笑った。
「ありがとうございます、エリン!」
「よし、行くか!!ラーミア、行ってくれ!!!」
 ルウトの言葉に答え、ラーミアはゆっくりと羽ばたき始めた。


「そういえば、ラーミアに乗っていたという事はこの10日間どこかで何かをしていたの?」
 エリンの言葉に、ルウトとクレアは一瞬体が揺れた。
「え、あ、あの……。」
「あ、ああ、こっから北のほうにある竜の女王の城にいた。」
 ルウトが女王のことについて淡々と説明をする。カザヤはもとよりエリンも知らないことだったので、 興味深く聞いた。
「へー、そんな人がいたんだね。そっか、出産って大変だって言うもんね。」
「そうだったのね……それにしても、ラーミアは話せたのね。」
”空気を震わせて、人の言葉を話す事はできぬが、相手に意思を伝える事はできる。”
 そう帰ってきた言葉に、エリンは頭を下げた。
「そう、ギアガの大穴までよろしくね。」
「そんでそのあとは、そこに滞在しながら、まずクレアの家に行って、二人に挨拶してだな、 それから世界中回ってきた。そうだ、これやるわ。」
 ルウトがぽんとカザヤに武器を渡す。黄金に輝いているその爪を見て、カザヤは仰天する。
「うわ、ぴかぴかだ、これなに!?」
「武闘家専門の武器らしいな。ピラミッドで見つけた。」
「あと、エルフのせいで眠っている村を見つけて元に戻したり、それからこんなものも見つけました。」
 クレアはそう言うと世界樹の葉を見せる。
「あと、なんか変なすごろく場とかに行ったり、変な泉を見たりしてたな。」
「色々お父さんのお話も聞けましたし、とても楽しかったんです。」
 幸せそうに言う二人を見て、カザヤはルウトの側により、ルウトにだけ聞こえるようにつぶやいた。
「とりあえず、旅をしている間は自重してね、ルウトにーちゃん。」
「んな!」
 思わず変な声をあげて顔を赤くするルウトにカザヤは大声で笑い、わけの分からない女性二人は 顔を見合わせた。


 ラーミアはギアガの大穴に降り立ち、そして飛び立っていった。
 ギアガの大穴は、おそらくゾーマのせいであろう、生々しい破壊の跡が残っていた。
 クレアは真っ青になって怯えている。あの攻撃を一番間近で味わったのだ。その恐怖は 身にしみているのだろう。
「……クレア……。」
「大丈夫です、ルウト。一緒に行くって決めましたから。」
 クレアはルウトの顔を見上げる。ルウトはそのクレアに付き添うように歩き出した。

 ゾーマの攻撃によって、封じられていた穴への入り口が開いていた。上から見ても下は真っ暗で何も見えない。 風すら吹かない。この下に世界があるなんて、信じられなかった。
 ルウトは迷いなくクレアを抱き上げる。
「大丈夫だ、あの竜の女王様が嘘をつくはずがないだろ?」
「そうね、ルウト。こうしていても良い?」
 きゅ、と首にすがりついたクレアに、ルウトは笑う。
「当たり前だろ?離れないようにしっかりつかまっていてくれ。」
 そんな二人を見て、カザヤはつぶやく。
「あれいいなぁ……よいしょ。」
「きゃ、何するの、カザヤ!!」
 カザヤは小さな体似合わぬ力で、エリンを軽々と抱き上げる。
「ほら、ルウトにーちゃんずっとああやってたじゃない、うらやましかったんだよね。だから僕もやってみようと思って。」
「ぎゃ、逆に危ないわよ!着地とか!」
「そんなことないよ。これだけ高かったら一緒じゃない?むしろばらばらにならないようにした方がいいと思うよ。」
 恥ずかしくて逃れようとエリンは暴れるが、武闘家のカザヤはそれを許さない。バランスをとりながらその腕に エリンを抱き続けた。余裕でエリンに笑いかける。
「暴れると余計危ないよー。」
「おう、カザヤやるなぁ!」
「ルウトにーちゃんこそね!」
 笑いあうルウトとカザヤに、エリンはようやく諦めて落ち着いた。
「まったく……。」
「うん、じゃあエリンねーちゃんもできれば僕につかまって。ルウトにーちゃん、行こう!!」
「おう!クレア、行くぞ!」
「はい!!」
 そうしてルウトとカザヤは、クレアとエリンを抱きかかえたまま、ギアガの大穴へと飛び込んだ。


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