〜 51.リムルダール 〜


 リムルダールは水深き町。そもそも山に囲まれたその立地は、その周りの湖とあいまって天然の要塞となっていた。
 だが、そこに住まう人々は、モンスターに怯えながらも穏やかな日常を歩んでいる。
 そんな穏やかな町の中、クレアとエリンは宿屋の一室で男二人の帰りを待っていた。
「……落ち着かないわ。」
 ぱさりと本を机に置いて、エリンはつぶやく。これは魔族に関する重大な情報を集めたものだというのに、 頭に上手く入っていかない。
「そう、ですね。でも心配かけてしまいましたから……。」
 二人はこの部屋からでるなと、きつく言われているのだ。メルキドからこちらに向かう途中で熱を出した二人を 心配してと言っていたが、実際は別のことを心配しているのだろう。
「そういえばクレア、聞いてもいいかしら?」
「なんでしょう?なんでも聞いてください。」
 エリンの言葉に、クレアは身を正しながら答えた。
「ルウトはクレアの為に戦い、世界を平和に導きたいと言っていたわ。では貴女は今、どうして戦うのかしら?」
「……。」
 クレアは黙り込む。エリンは微笑んで答えを待つ。やがてクレアは口を開いた。
「……最初は、母のためでした。母の名誉の為に。……今は、自分がどうすればいいのかわからなくて……。 私は父を追っています。ゾーマを倒すために旅に出た父を。……けれど、父がゾーマを倒せば、母は二度と父に会えなくなる。 ……分かってはいるんです。」
 ずっと考えていた。自分はどうしたいのかと。
 魔王退治など、自分には恐ろしい。そんなことやりたくない。父ならば、きっと見事にやり通してくれるはずだ。
 ……けれど、あの母を本当に救えるのは、きっと父だけだ。
「それにはまだ、答えが出ませんけれど、その答えを探すために、今父を捜しています。そして……きっと私は 戦いたくない、だから戦うんだと思います。」
 最後にまっすぐ、目を見て言った。
「強くなったわね。最初は母親のことを聞いただけで、倒れていたのにね。」
「それはきっとエリンのおかげです。ありがとう。」
「私は何もしていないわ。感謝ならルウトにしなさい。」
「ええ、それは……」
 クレアが頷きかけたとき、ものすごい勢いで扉が開いた。
「クレア、来てくれ!!」
 ルウトは強引に腕をつかむと、クレアを連れて部屋を出た。
「なんなの……?」
 エリンが呆然としていると、後から来たカザヤが、エリンに言う。
「オルデガさんが、ちょっと前までこの町にいたらしいんだよ。……オルデガさんは僕たちに必要なことを全部 残してくれたんだ。」


 宿屋の裏庭に、その男はいた。
「そうですか……貴女がオルデガさまの娘さんですか……。」
 父としばらくの間共に過ごしたと言う男性が、クレアを見て感慨深く言う。
「はい、父がお世話になりました。……もっとも父は私のことを覚えていないようですが……。」
「ええ、そうおっしゃっていました。だからこそ、魔王を討ち取れるのは自分だけだとおっしゃって……いや、きっと あの方はやり遂げてくださるでしょう。これは娘さんが持っていてください。」
 そう言って、指輪を一つ手渡した。
「不思議な力がある指輪だそうです。同じものをオルデガ様が持っていらっしゃいます。」
「ありがとうございます。」
「オルデガ様の後を追うのでしょう?オルデガ様から聞いた情報が役に立てばいいのですが。どうかくれぐれも お気をつけて。」
 そういうと、男はさびしげに笑って去っていった。
「お父さんはここにいたのね……。」
「ああ、元々オレたちと同じ情報を追ってたらしいんだが……どうやらこの町の北の岬にゾーマ城への道が通ずるらしいな。」
 この町からは、ぼんやりとだがゾーマの城が見える。北の岬はもっともゾーマの城に近い場所らしい。
「お父さんは今、そこにいるのかしら?」
「とりあえずカザヤに見に行ってもらってる。オレたちは宿屋に帰ろう。」
 うながすルウトを見ながら、クレアは胸を押さえて立ち止まる。
「……ルウト、私、どきどきしているの。」
「ん?」
「お父さんになんて言えばいいのかしら。お父さんは私のことを覚えていないのに。嬉しくて、不安で、どきどきするの。」
 ルウトはクレアの前に立つ。
「オレもどきどきしてるよ。ずっとあこがれてた人だし、何よりクレアのお父さんだしな。……でもそれ以上に、いつも ドキドキしてるよ、クレアにな。」
 そういって、ルウトはクレアに優しくキスをする。そして小さく舌を出して笑った。
「さ、帰ろう。オルデガさんがいるといいな。」


「残念ながらいなかったわ。」
 部屋に戻ってきたエリンが、開口一番そう言った。
「そう、ですか……。」
「周辺も簡単に見てきたんだけど、姿は見えなかったな。オルデガさんと僕たちとはまた行き方が違うみたいだし、 もっと別のところにいるのかもね。」
 カザヤの言葉に、クレアはしばらく考える。
「そうです、ね。暁夜の日までまだ間がありますし、その間に聖なる守りを捜しましょう。虹の橋というのがそのまま その通りの言葉だとすれば、近くにいればきっと目に入るはずです。父が私の言葉を信じてくれず、そのままゾーマの 城に行ってしまっても、追いかけることもできますし。」
「賢明だわ。そうするとマイラに向かうことになるわね。笛があるのだった?」
「ええ、なんの役に立つのか分かりませんけれど。けれど、おそらくルビス様救出の為に必要なのでしょう。」
 エリンとクレアの言葉にルウトとカザヤも頷いた。
「じゃあ、次はここから北だね。」
「マイラは温泉の村らしいからな。……おちついたらゆっくりしたいぜ。」
 ルウトの言葉に、エリンも小さく頷いた。
「そうね、本当に、そんな時がくればいいのだけれど。」


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