「あ、これ!見てみて、これじゃない?!」 ちょうどオルデガと別れた場所の裏手。置かれていた宝箱から、青い宝石が出てきた。カザヤは嬉しそうにそれを見せる。 「これ、賢者の石かな?」 「そうみたいね。」 「ねぇ、僕が持っててもいい?」 ねだるように言うカザヤに、エリンは少し考える。 「そうね……まぁいいかしら。けれどできれば攻撃を優先してね。」 「うん、ありがとう!」 嬉しそうにしまうカザヤ。 「僕さぁ、ずっと回復ってしたかったんだよね。誰かを助けるって良いよね。でも魔力なさそうだしさ、僕。……誰かが傷ついたときに 何も出来ないってさぁ、嫌だよね。」 「そうね。」 にこにことしているカザヤがそういうにいたるに何があったのか。エリンは知らないし聞く気もないが、その気持ちは良く分かる。 「良かったわね、カザヤ。」 「うん、クレアねーちゃん。これでゾーマだって怖くないよ。」 「ああ、そうだな。これ、魔力要らずでいくらでも回復できるってのが心強いよな。」 そんなことを言いながら、四人はそのまま奥へ進む。そして階段。その下にある気配。おそらく自分達のことを 挑発している巨大な邪の気配。 「さってと、あと一匹か?」 「他に部下とかいる可能性もあるわ、油断しないで。」 「でもこれで最後か。長いようで短かったな。」 「……そうですね。終わりにしましょう。」 クレアがそう言って、頭の兜を撫で、そしてゆっくりと長い長い階段を進み始めた。 真っ暗な空間。あまりに暗く、どこまでもどこまでも広がっている気がするほど。 「暗いな、どうなってんだ。」 ルウトの言葉の反響が、そこが本当に広いと実感させる。四人はくっつきながら、邪の気配のするほうへ少しずつ歩き始める。 「きゃっ」 「危ない、クレア!ここ階段になってやがる。」 四人はゆっくりと、階段を登る。ほどなくして階段は終わった。 ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ その途端、周りに灯りが着き始める。 ゆっくりと着き始めるともし火たちが、そこは巨大な広間で水が湛えてあり、その中央には一つの町ほどもある大きな橋が 渡してあることが知れた。 ずん、ずん、ずん、と遠くから深い音がする。 現れたのは、異形のもの。青くぬらぬらとした肌、するどく光る爪。まるで賢者のようなローブを身に着けたその魔物こそ。 「大魔王ゾーマ……。」 「クレアよ!我が生けにえの祭壇へよくぞ来た! 我こそは全てを滅ぼすもの!全ての命を我が生けにえとし絶望で世界を覆い尽くしてやろう!クレアよ、我が生けにえとなれ!!」 「生け……にえ?よくそんな言葉、僕に言えるよね。」 「まぁ、悪趣味だこと。わざわざこんなものまで設えて。」 カザヤとエリンがはき捨てるように言う。ルウトはゾーマを指差し、敵意を向ける。 「ああ、ふざけるなよオレのクレアをお前になんてやってたまるか!」 そんな言葉をゾーマはまったく聞いていないようだった。まるで葉ずれの音のように、ないも同然の音。 「……そんなことにはなりません、私達が貴方を倒して、世界を平和にしますから!」 クレアがルウトの横で、ゆっくりと搾り出したその声。それを聞いて、ゾーマはようやくにやりと笑った。 その瞬間、クレアの意識が飛ぶ。どこかに消え去るようなルーラに似た感じ。とっさに手を伸ばすも、驚いている ルウトの表情と、そして。 「いでよ我がしもべ達。こ奴らを殺し、その苦しみを我に捧げよ!」 そんなゾーマの声と共に、クレアの記憶はそこで止まった。 突然、何の前ぶりもなく、クレアが消えた。 「いでよ我がしもべ達。こ奴らを殺し、その苦しみを我に捧げよ!」 ゾーマがそう声をあげると、そのまま来た道を引き返していく。 「まて、クレアをどこにやった!!」 ルウトがそれを追いかけて祭壇から飛び降りる。その進路に立ちふさがるように、青紫のモンスターが立ちはだかる。 「わたしはバラモスブロス……弟が世話になったようだな……ここから先は通さぬ!!」 言われてみると、確かにバラモスに似た型のモンスターだと思ったが、ルウトの目にはただの障害物に過ぎなかった。 ルウトはいまだ祭壇の上にいる二人を振り返る。 「ここは任せた!!」 「ルウト!!?分断するのは危険よ、他にも敵がいるの可能性があるわ。」 「ルウトにーちゃん、危ないよ!!」 そう止める二人に、ルウトは首を振る。 「悪い、クレアが待ってる。オレは行かないと。」 「ルウト!!」 走り出したルウトを呼び止めるようなエリンの声に、ルウトはバラモスブロスの横をすり抜け、一度だけ振り向いた。 「お前らの力、あてにしてっからちゃんと間に合ってくれよな!!!」 そうして、攻撃してこようとしたバラモスブロスに、メラゾーマをぶつけるとそのまま一直線に走っていった。 「……ルウト……。」 「信用さちゃったならしかたないよね、エリンねーちゃん。」 心配そうにつぶやいたエリンを慰めるように、カザヤが背中をぽん、と叩いてにこっと笑った。 「そうね、本当にやっかいだこと。」 エリンはちらりとカザヤを見て嘆息する。今は余計なことを考えている場合ではなかった。 「ま、でも文句言わないといけないよね。早く片付けて文句言いに行こう。信用に応えてさ。」 「そうね。」 二人はバラモスブロスをにらみつける。ルウトの置き土産のおかげか、妙に殺気だった目でこちらを見ている。 「残ったのは雑魚か……まぁ良い。あれは弟に渡さねばいかん。」 「弟…?バラモスがまだ生きているの?」 「さてな、そちらには関係のない話だ。そなたらはここで死ぬのだ。」 エリンとカザヤはそれぞれその言葉に身を低くして構える。 「エリンねーちゃん。……僕が守るから。」 それだけ言うと、カザヤは高く飛び上がった。 (クレアクレアクレアクレアクレアクレア!!) ただひたすら心で呼びながら、ルウトは一直線に道を走る。 後ろが気にならないわけではない。けれどあの二人なら必ずやってくれる、そう信じている。けれどクレアは 連れ去られた。 (くっそ、大魔王だろうがなんだろうが、オレのクレアはわたさねーぞ!!) ただ一人連れ去られた。殺されては、いないはずだ。わざわざ連れ去る必要はないはずだから。 それは保障ではなく、ただの希望でしかないことはわかっている。 きっと寂しがっている。自分を待っている。だから行かなければ。 「……ようやくまみえたな……まるで千年のように感じたぞ……。」 まるで地面がうごめく音のような、低い低い聞き取りづらい声だった。 ルウトは顔を上げる。このモンスターの素性はどうでもいい。脇をすり抜けられないかと思ったのだが、 さすがにそんな隙はなさそうだった。 紫色の、いかにものアンデットモンスター。そうわかったのは、全身が骨だけで出来ていたからだ。 「オレはどうでもいいね。一分一秒でも惜しい。とっととどけよ、雑魚。」 「……このわしを、また雑魚と申すか!!許さぬ!そなただけはわしのこの爪で、今度こそ骨の髄まで 刻んでくれるわ!!!この大魔王バラモス様がだ!!」 その爪を、ルウトは済んでのところで避ける。道が見事にえぐれた。 攻撃は読みやすい。おそらくアンデットになったせいで、頭が悪くなっているのだろう。けれどその代わりに 攻撃力は上がっているようだと思った。 「ああ、あの雑魚偽魔王かよ。一つ聞くが、お前、クレアは知らないか?」 「殺す殺す殺す殺す!!」 「ああ、本気で雑魚になっちまったんだな。とっとと倒すか、クレアが待ってる。」 ルウトは少しの哀れみを向けて、剣を抜いた。 |
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